鳥取大学農学部 Faculty of Agriculture, Tottori University

教員詳細

教授

伊藤 壽啓

Toshihiro ITO

所属
共同獣医学科
講座
応用獣医学
教育研究分野
獣医公衆衛生学
主な担当科目
人獣共通感染症学, 環境衛生学, 食品衛生学

研究の概要

世界規模から遺伝子まで:ズーノーシスの起源を探る

私は代表的な人獣共通感染症(ズーノーシス)の一つである高病原性鳥インフルエンザについて、原因ウイルスの宿主域決定因子の特定や鶏継代実験による病原性獲得変異機構の解明、あるいは野生鳥類を対象とした国際疫学調査の実施など、遺伝子レベルから世界規模に至るまでの幅広い視野に立った研究により、本病の防遏対策確立と流行制圧を目指しています。

インフルエンザウイルスの電子顕微鏡像

H5N3亜型鳥インフルエンザウイルス分離株(A/whistling swan/Shimane/499/83)のネガティブ染色による電子顕微鏡像(スケールは100 nm)。

主な研究テーマ

インフルエンザウイルスの宿主域制限因子の特定とパンデミックウイルスの出現予測

新型パンデミックインフルエンザの出現予測に資することを目的として、インフルエンザウイルスの宿主動物の一つである豚の気管上皮細胞表面に、人と鳥のインフルエンザウイルスの両方に親和性のあるレセプター物質が存在することを明らかにした。このことは豚が鳥と人のウイルスの遺伝子再集合体を生み出す環境を提供していることを示している。また、この発見は、人の新型インフルエンザウイルスの出現機序を説明し、豚の継続的な監視の必要性を強く支持するものとなった。今後は異なる動物由来インフルエンザウイルスの宿主域制限因子に関する研究をさらに推進し、当該ウイルスの異動物種間伝播機序の分子レベルでの解明を目指している。

アヒルの結直腸とブタの気管におけるレクチン染色の比較。シアロ糖鎖NeuAcα2,3Galに特異的なM. amurensisのレクチン(α2,3と命名;FITC標識抗DIG抗体で検出)はカモの腸上皮とブタの気管上皮の両方に結合するが、NeuAcα2,6Galに特異的なS. nigraレクチン(α2,6と命名;Rhodamine標識抗DIG抗体で検出)は後者にしか結合しない。

ミクソウイルスの病原性獲得変異機構の解明研究

野生水禽由来の低病原性鳥インフルエンザウイルスを鶏の気嚢で24代、脳で5代継代して得られた病原性獲得変異株は、本ウイルスが鶏体内での増殖を繰り返す間に、そのHA開裂部位に、段階的に遺伝子変異が導入・蓄積され、最終的に鶏に対する致死率100%の高病原性ウイルスに変化した。これらの成績は、自然界においても野生水禽で維持されている低病原性ウイルスが、偶発的に鶏に伝播し、鶏で循環している間に高病原性ウイルスに変化する可能性を示している。現在はリバースジェネティクス法で作出した人工変異ウイルスを用いて、その病原性獲得変異機序の分子レベルでの更なる解明を目指している。

鶏でほとんど増殖しないH5N3亜型の低病原性鳥インフルエンザウイルス(A/whistling swan/Shimane/499/83)は、初生雛の気嚢内で24代、脳内で5代継代することにより、成鶏に対して致死率100%の高病原性鳥インフルエンザウイルスに変化した。

インフルエンザウイルスの系統進化学的解析研究

インフルエンザAウイルスM遺伝子の進化系統学的解析を行い、この遺伝子が少なくとも4つの異なる宿主関連系統に分かれて進化したことを明らかにした。またM1およびM2遺伝子と各々の転写産物の解析から、このバイシストロン性遺伝子では1つの蛋白の進化が、他の蛋白の進化に影響し得ることを明らかにした。このように確立されたインフルエンザウイルス遺伝子の進化系統学的解析によって、現在は特に高病原性鳥インフルエンザの国内流行における感染源の特定や国内侵入経路の推定研究を通じて、今後の国内流行拡大防止体制の確立を目指している。

インフルエンザAウイルスM遺伝子の進化系統樹。様々な宿主と地域から分離されたA型インフルエンザウイルス42株のM遺伝子の系統解析から、これらの遺伝子は少なくとも4つの主要な宿主関連系統[1) 馬由来A/equine/prague/56株 2) H13カモメウイルス系統、 3)ヒト及び古典的豚ウイルス系統 および4)北米と旧世界鳥ウイルス系統]に進化したことが明らかとなった。

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