2000年度春季研究会報告要旨


The Rural Finance in Vietnam --- Credit Constraints and Households' Production ---

Pham Bao Duong and Yoichi Izumida University of Tokyo

Abstract

    Vietnamese rural economy has been faced the dilemma of a serious shortage of funds while there are many emerging opportunities for expanding production. Under such a circumstance, farmers would be rational to identify which institution(s) should they apply for a particular kind of credit and expectedly some applications for loans have been externally rationed. Therefore, credit plays a special role in production. In this study, a Probit and a Tobit model were employed to identify determinants of external credit rationing and of households' borrowing. Also, attempts were devoted to quantify the relationship between liquidity and households' output supplied, as well.

Keywords: External credit rationing; Borrowing functions; Households' output supply functions; Tobit model; Switching regression model.


コーヒーの需要体系からみた国際コーヒー協定の計量的分析

鵜澤慎一(東京大学大学院農学生命科学研究科)

要 旨

 本報告は、コーヒーの品種間の相違を考慮した需要体系モデルを用いることによって、国際コーヒー協定が品種別の価格形成に及ぼした影響を分析することを目的とするものである。

 コーヒーは、赤道をはさむ南北亜熱帯地域でのみ生産される産品であり、もっぱら途上国によって生産され、先進国によって輸入されている。発展途上国において、コーヒーはとりわけ重要な輸出品であり、アフリカ諸国、中南米諸国においては、最大の外貨収入源として位置づけられている国も多い。発展途上国による石油、天然ガス以外の一次産品としては、最大規模を誇る産品でもある。また、世界の農産物貿易においても、1998年における輸出額は137億ドルに達し、小麦の173億ドルにも匹敵する規模である。

 国際コーヒー協定(1962年〜)は、商品協定の中でも市況維持の役割を比較的有効に果たしえた好例とされている。同協定は、1960年代、1980年代において輸出割当を実施しており、加盟輸出国から加盟輸入国への輸出数量を制限することによって、価格の維持を図るものであった。しかしながら、第一に、割当対象外の「非」加盟輸入国が安価なコーヒーを享受しうる点、第二に、輸出各国の割当数量が固定的であり、品種別の価格変化に対して硬直的である点が、加盟輸入国の強い不満を誘い、19897月をもって、輸出割当は停止された。

 加盟輸出各国の栽培品種は、気候条件に制約され、各国の輸出品種はおおむね固定している。大別して中南米諸国を中心とする高品質なアラビカ3種(アンウォッシュト、コロンビアン・マイルド、アザー・マイルド)と、インスタントコーヒー等の工業用に用いられることも多いロブスタ種(アジア、アフリカが主産地)に分けられる。輸出割当停止後も、1994年の協定更新に向けて、輸出入国双方が合意可能な割当制度実現に向けた議論が続けられており、第一に、需要の高いマイルド・コーヒー(アラビカ種の一部)の供給拡大、第二に、各品種の価格の変化に応じて、特定品種の生産国の割当数量を個別に設定、増減枠する制度の導入が焦点となった。しかしながら、ロブスタ種の価格低迷にあえぐアフリカ諸国等の希望に反し、輸出割当再開の政治的な決着をみることはできなかった。1990年代においては、輸出各国による輸出留保計画が実施されているものの、輸入国の協力を伴わない現状では、成果をあげることができていない。

 以上の背景を踏まえ、本研究においては、第一に、需要体系モデルとしてAIDSモデル(一部ロッテルダムモデル)を用い、主要な輸入国11カ国の輸入需要を推計する。この結果を踏まえ、第二に、品種別の割当数量を変化させるシミュレーションを行うことによって、実績価格からの変化を分析する。とりわけ、ロブスタ種の価格を下支えするために、ロブスタ種の割当数量を選択的に制限することが、かならずしもロブスタ生産国の収入の減少をもたらさない結果を指摘したい。


硬質小麦需要の増大と内外麦プール方式

石崎程之(京都大学大学院農学研究科)

要 旨

 わが国は高度経済成長期を通して小麦需要を大幅に増大させてきた。その中でも特に注目されるのは、気象条件などから国産不可能とされている硬質小麦の需要増大である。本報告は、この硬質小麦の需要増大を内外麦プール方式および米麦の価格政策の相違といった観点から明らかにする。昭和30年から48年の高度経済成長期を対象とし、構造方程式を組みたてて計量的におこなう。既存の統計資料から得られることのできない硬質小麦需要量の推計も行う。


半島マレーシアにおける民族間のすみわけ

國分圭介(東京大学大学院農学生命科学研究科)

要 旨

 異なる民族の間にすみわけ、即ち住所や職業における相違がある場合、どのような不都合が生じるであろうか?この問いに対しては政治的な側面からと、経済的な側面からの答えを用意できる。まず政治的には、立場や意識における民族間の相違により国民建設(nation-building)の達成が困難となるであろう。また経済的には、民族間の所得分配が不平等となり、さらに人的資源配分の非効率によって生産性を低めてしまうであろう。

 本論文は、多民族国家マレーシアの半島部における主要3民族(ブミプトラ、華人、インド人)間のすみわけを州・年次ごとに計測し、その動態を見ると同時に、すみわけを崩壊させるための要因、さらにはすみわけが崩壊することによる経済効果を計量的に分析・把握することを目的としている。

 すみわけの計測には、ジニ係数、相違指数、タイル指数の3手法を必要に応じて使い分けた。これらの手法で測ったすみわけは、「住」、「職」ともに顕著に崩壊の傾向を示し、民族のミクスチャーが進行していることを確認できた。すみわけ崩壊の要因分析では、「住」においては人口密度が高いほど、州外からの人口流入が活発であるほど、民族構成が均等に近いほどすみわけが崩壊するという結果となり、「職」においては労働人口増加率が高いほど、教育が普及しているほど、民族構成が均等に近いほどすみわけが崩壊するという結果となった。また「住」、「職」それぞれにおいて、英語のような民族意識の希薄化に役立つ言語の普及、情報・通信手段の普及がすみわけの崩壊に貢献することを合わせて確認した。さらに「職」におけるすみわけ崩壊の経済効果としては、民族間所得配分の均等化、及び労働生産性の向上が認められた。

 周知の通り、マレーシア政府はブミプトラ政策というやや強権的な政策によって民族間格差の是正を目指した。本論文はすみわけの崩壊要因を探ることをテーマの一つに掲げているため、こと目的に限って言えば政府と異なるところが無い。が、手段に関しては、本論文は労働市場の十全な発揮を阻害する“「レッテル」に依存した労働市場”の存在に着目し、その改変を促すための手段をもってすみわけを崩壊させることを提案しており、政府の政策とは対称的に極めて間接的でソフトランディングである。また、本論文では政府の政策(マレー語の半ば強制的な普及、新人口政策)が逆にすみわけを強めた側面がある事実をも計量的に確認しており、そのため既存の政策に対して代替案を提示するという性格を有している。経済的な不平等を改善しながら、同時に調和的でゆるぎの無い国民意識を確立するための手段を、極めて不十分ながらも本論文で示すことが出来たのではないかと思う。


食料安全保障の経済分析

児玉剛史・渡邊正英・嘉田良平(京都大学大学院農学研究科)

要 旨

 食料安全保障とは、不測の事態において国民の生命と健康を守り、食生活面において国民が安心して暮らせるようにするために、食料の安定供給を確保すること、と定義しうる。つまり「不測の事態というリスク」に対して保険的な機能を国家政策として行うもので、現在、食料備蓄、農地保全、農産物輸入多角化などが食料安全保障政策として実施されている。一方、我が国はWTO交渉の場においても食料安全保障の重要性を農業保護の論拠として強く主張しており、今後の国際的な農業政策の展開において多面的機能の発揮と並んで農政の主要な柱と位置づけられている。

 そこで本研究ではこれらの食料安全保障政策の価値を定量的に評価することを目的とする。その分析対象として、特にコメの備蓄と都市近郊農地の保全を取り上げる。備蓄政策は諸外国で幅広く採用されており、我が国でもコメをはじめとする穀物、大豆などで備蓄が行われている。特にコメに関しては、平成5年の冷害を受け、その重要性が見直されており、現在、通常通りの消費を想定して約2ヶ月分の供給量に相当するコメの備蓄を行っている。他方、多くの先進国では、人口が集中し、食料の生産能力が低い都市近郊地域での食料安全保障を重視して、緑地保全政策がとられている。そこで本研究では、都市の食料安全保障政策として近郊農地の保全を取り上げることとする。

 これらの食料安全保障政策の価値評価を行う手法として、仮想状況評価法(CVM)を用いる。我が国において食料安全保障は国家政策として行われている。そのため、食料安全保障を享受する消費者の評価を市場データから明らかにしようとすることは、政治的要因をはじめ、多くの他の要因に強く影響を受けることとから非常に困難である。そこでCVMに基づいたアンケートデータにより、直接これらの政策に対する支払意志額を明らかにし、数量的に把握しておくことは重要であると考える。

 CVMは環境評価において近年多く用いられている手法であり、我が国でも多くの適用例がある。しかしながら、本研究において取り上げる食料安全保障は、実際に不測の事態が起こるかどうかについては未知であり、一種の保険としての役割を果たすものである。また、具体的な施策の評価を行うことを本研究の課題とし、その施策の成果に含まれる不確実性を考慮する。これらのことに留意したアンケート設計を行った。

 分析対象地域として京都市および鳥取市を選択し、199912月に行ったアンケート調査を用いる。標本は電話帳をもとに無作為抽出し、郵送によって4050部(両地域に2025部づつ)配布した。その回収率は28.3%に達した。

 計測の結果、消費者はコメの備蓄に対して、近郊農業保全より高いWTPを持つことが明らかとなった。またリスクについては、相対的に高いリスクに対応可能な政策に対して比較的高いWTPを持つことが明らかとなった。さらに、政策の不確実性についても、より確実性が高まるにつれてWTPが高くなることが明らかとなった。また地域差、年齢差などの詳細についての説明は個別報告の中で行いたい。


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