研究室紹介
 
 育種学とは「品種改良の科学」です。新品種を作り出すのは、新型車を作るのに似ています。まず市場調査、それから設計、部品の開発や探索、組み立て、性能試験、生産を経て販売されます。育種で必要な「部品」は遺伝子です。良い品種を作るには、優れた遺伝子が必要です。私たちは、この遺伝子を異種植物に求めています。これまで、文部省のナショナル・バイオリソース・プロジェクトに協力し、ライムギや野生植物の染色体を保有した多数のコムギ系統を収集・育成しました。
 2007年度より、グローバルCOEプログラム「乾燥地科学拠点の世界展開」において「分子育種研究グループ」を担当し、特に耐乾性・耐塩性コムギ系統育成に向けた研究を、シリアにある国際乾燥地農業研究センター(ICARDA)と共同して進めています。
 また、2009年度より大学に設置された「染色体工学研究センター」において「植物染色体工学部門」を担当し、異種染色体の特性を深く研究しようと思っています。
 現在、世界同時食糧危機を解決する方法が求められています。私たちは、世界の主要作物コムギをターゲットにし、ユニークな材料とアイデアで、育種の視点からの解決策を模索しています。
 具体的な研究内容は次の通りです。

1.遠縁交雑によるコムギの遺伝資源拡大と利用
 ハマニンニクは海岸に自生する多年生植物です(図1)。これをコムギと交配して雑種を作りました。その子孫からハマニンニク染色体をもったパンコムギの系統を作りました。このように野生植物の染色体をもつ系統の中には病気や乾燥、塩害に強いものがあります。また、肥料を効率よく利用する系統も見つかってきました。
2.植物の種間交雑の研究
 異種をコムギと交雑すると、受精から胚発生時にさまざまな異常が発生します。たとえば、パールミレット(アフリカ起源の耐乾性作物)の花粉をコムギの雌しべに受粉させると、雑種胚の中でパールミレット染色体が脱落します。この染色体脱落を抑制できれば、パールミレットの耐乾性遺伝子をコムギに導入できるはずです。私たちは、染色体脱落抑制法を見出し、遠縁交雑により有用遺伝子を導入する方法を開発しようと考えています。
3.小麦粉の品質に関与する遺伝子の研究
 パン生地の性質はコムギの品種によって大きく変化します(図2)。私たちは異種植物の染色体を保有する系統から小麦粉をとり、その性質を調べました。その結果、異種植物の新規タンパク質が添加され、強い性質のグルテンを作る系統を見出しました。また、世界のさまざまなコムギ系統を調査し、グルテンを構成するタンパク質の性質から、コムギの伝播と利用法の関係に興味を持ち研究を行っています。
4.世界のコムギ品種の調査
 世界でどのようなコムギが栽培され、どのように利用されているかを知るために、これまで、数次の植物探索隊に参加しました。探索した国は、中国、ネパール、ブータン、シッキム、インド、アルメニア、アゼルバイジャンです(図3)

さらに詳しく知りたい方は、辻本または田中まで連絡いただくか、研究室に直接お越し下さい。

〒680-8553
鳥取市湖山町南4-101 鳥取大学 農学部 植物遺伝育種学研究室
TEL/FAX 0857-31-5352, e-mail: tsujim@muses.tottori-u.ac.jp (辻本)、htanaka@muses.tottori-u.ac.jp (田中)

TOP PAGE

図1 海岸に自生するハマニンニク Leymus mollis (鳥取市浜村海岸)

図2 様々な粉で焼いたパン。左から、小麦粉(強力粉)、全粒小麦粉、ライムギ粉

図3 アルメニアの薄焼きパン(ラバッシュ) 通常のパンの上にのっている布のような物