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生鮮食料品流通の時系列分析
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 本書では時系列の解析方法及び生鮮食料品市場時系列データの分析に重点をおき,特に可変型季節性指数及び可変型循環変動について,いままでの研究成果を勉学したうえ,新しい解析方法を研究考案し,従来の分析方法と比較しながら,統計学的に有意性を確認してきたものである。また,生鮮食料品の市場データを用いて,その変化規則及び変化原因を分析研究したものである。
 本書は8章構成である。生鮮食料品市場時系列データを分析対象とし,いままでの時系列解析法を整理した上で,可変型季節性指数の抽出法及び周期・振幅ともに時間tの関数とする可変型循環変動の抽出方法を研究開発したものである。また,その方法に基づいて青果物及び畜産物時系列の変動特徴を分析検討したものである。
 第1章では,最近の市場流通の変貌をまとめる。市場外流通数量が年々と増加することによる販売価格の不透明化,農協の合併による出荷団体の拡大及び市場供給者数の減少,スーパーマーケット等量販店の普及による小売業者の大型化等,これらの変化が市場価格に対して与える影響について考察検討する。また,生鮮食料品の流通特徴,つまり価格の不安定性と非弾力性を説明する。最後に本書の対象分析とするデータを吟味する。つまり欠落データの補欠方法を説明し,分散分析によりデータの季節性,傾向・循環性の有無を検討する。そして,分析手順を設定する。
 第2章では,これまでの時系列解析法を整理する。季節変動においては固定型季節指数,可変型季節指数それぞれの抽出方法を説明し,生鮮食料品時系列の季節変動の抽出に対する適合性を検討する。傾向変動の算出方法はさまざまあるが,本章では移動平均傾向線,最小二乗法による回帰曲線,修正指数曲線,ゴンペルツ曲線,ロジスチック曲線を中心として比較検討し,その特徴と問題点をまとめ,生鮮食料品市場情報の傾向変動抽出に最も適する傾向変動の抽出方法について検討する。循環変動の抽出法については,周期解析では自己相関係数(Auto-correlation),周期解析強度(Periodgram),パワー・スペクトル(Power Spectral)解析の計算方法を説明し,フーリエ級数に基づく三角関数による循環変動の抽出方法を検討する。パワー・スペクトル解析法については,ラグ・ウィンドーの打切り数によるスペクトル周期検出分解能をウィンドー・クロージングの方法を利用し,与えるウィンドーの大きさを検討する。
 第3章では,実質価格,名目価格それぞれにおける時系列解析の適合性を分析検討する。一般的に統計調査による市場価格データは取引価格をそのまま記入しており,いわゆる名目価格である。しかし,物価・賃金は長期にわたって上昇しており,これは時系列データに影響を与えるだろう。市場データでの時系列分析時には物価指数によるデフレートした実質価格と市場調査による名目価格とは季節変動,傾向変動,循環変動の抽出にどのような影響があるかを分析し,時系列分析に当ってはどちらを採用すべきかについて検討する。
 第4章では,新しい可変型季節性指数抽出法を考案し,その実用性を検討する。ここではまず従来の可変型季節性指数抽出法であるEPA法,センサス局法等による可変型季節性指数抽出法を充分検討し,問題点を指摘した上で,新しい可変型季節性指数抽出法を研究考案した。ここでオリジナルな可変型季節性指数抽出法を連環比率移動法(Link Relative Moving method:LRM法)と呼ぶこととした。この連環比率移動法により可変型季節性指数を抽出し,分散分析の手法で傾向・循環変動及び不規則変動の除去効果を考察する。また共分散分析の手法でEPA法による可変型季節性指数との差異性を考察する。さらに連環比率法による固定型季節性指数,EPA法,開発した連環比率移動法それぞれによる可変型季節性指数の時系列定常化により,抽出した循環変動および不規則変動にどのような影響があるかについて分析比較し,異なる季節性指数抽出法に対する循環変動及び不規則変動への影響を検討し,季節性指数抽出法の総合評価を試みる。
 第5章では,モンテカルロ・シミュレーションにより,開発したオリジナルな連環比率移動法の季節性指数抽出の安定性を検討する。ここでまず生鮮食料品の不規則変動の特性を分析し,コンピューターによる一様乱数の一様性をカイ二乗検定した上,ボックス・ミュラー法により正規乱数を生成し,これを不規則変動とする。そして人工的に分析系列を合成し,EPA法,連環比率移動法それぞれに適用して可変型季節性指数を抽出する。系列合成から可変型季節性指数を抽出するまで10,000回を実行し,抽出した可変型季節性指数の安定性を検討する。また,シミュレーションの結果である可変型季節性指数に対し,分散分析により季節性の有意性を検討し,系列合成時に用いた真の季節性指数との平均差により,EPA法,連環比率移動法それぞれの季節性指数抽出力を検証する。
 第6章では,周期・振幅ともに時間tの関数とする可変型循環変動の抽出法を検討する。従来のフーリエ級数の三角関数式による循環変動は周期,振幅が長年において不変であり,すなわち固定的であると仮定したものが多い。しかし,長期的にみれば生産条件,経済政策,消費者嗜好等要素の影響により,循環変動の周期,振幅が不変であると想定しにくい。可変型循環変動の抽出法に関する研究が少ない中で,周期,振幅は時間tの関数であると考え,計算区間による循環変動の平均値により全計測期間の可変型循環変動を算出する方法を検討する。また,可変周期,可変振幅の回帰解析により,時間tの関数式を求め,それをフーリエ級数に代入することで,周期・振幅をともに時間tの関数とする可変型循環変動を算出したものである。算出した可変型循環変動と定常系列との偏差により有意性を検討する。
 第7章では,青果物時系列の季節変動を中心に,数量,価格変動の特徴及び市場間の関連性を分析する。青果物季節変動の起因は年間を周期とする生産特性によるものであり,加えて需要の価格弾力性が低く,市場取引には鮮度が要求され,長期貯蔵に要する費用が高いこと等から価格の季節変動幅が大きいことがよく知られている。また,長期的にみれば経済の成長とともに価格が上昇傾向にあるだろう。近年の経済不況は青果物価格変動にどのような影響をもたらすかを分析する。循環変動の分析では,一部分の青果物品目には循環変動が存在していることを確認した上,その循環周期を検出する。さらに,地方卸売市場と中央卸売市場の青果物価格変動を比較し,その特徴を分析整理する。
 第8章では,畜産物の生産量,卸売価格,小売価格データ系列により,近年における畜産物時系列の季節変動,傾向変動,循環変動の特徴を解明し,要因を分析する。季節変動について,連環比率法により固定型季節性指数を抽出し,生産量及び卸売価格,小売価格の月別変化を分析する。また,長期的にみれば季節変動の変化パターンは可変的である観点から,連環比率移動法による可変型季節性指数を抽出し,分析検討する。傾向変動の分析には最小二乗法による回帰推定曲線を適用し,長期変化の傾向性を検討分析する。循環変動では牛肉を中心として分析を進める。近年の牛肉循環変動の周期が変調していると指摘されているが,ここではSchusterのペリオドグラム,パワー・スペクトルにより具体的な周期期間を検出し,周期形成の要因を分析する。
 本書は時系列解析の方法に関し,読者の立場からなるべく理解しやすいように心がけ,できるかぎりに実例を挙げ,図表形式を用いて実証し,計算方法をやさしく説明してある。時系列解析の参考書として利用していただければ幸いである。


    著 者: 万  里(Wan Li)
    発 行: (財団法人)農林統計協会
    発行日: 平成14年9月20日
     ISBN: 4-541-02986-3
    販 売: 全国書店販売(インターネットによる検索・購入可能)
    定 価: 3,600円+税