一般に農産物の生産は自然条件に制約され、生産量が不安定であり、時期によっては、供給量の差が大きく、価格弾力性が小さい。特に貯蔵と運搬性能に乏しい青果物については、生産量に加え、産地から消費地までの輸送距離、さらに季節の変化に伴う価格の差が大きい。
　青果物の価格変動は、直接生産農家の所得変動をもたらすことから農業問題の1つに考えられ、一方､消費者にとっても、安定的な野菜供給が要求される。従って、この価格の変動が生産者及び消費者にどのような経済厚生上の影響を与えるのかについて、分析しておくことが重要な課題である。
　青果物は年間を周期とする生産、そして卸売市場を経由する流通形態をとり、他産業製品と著しく異なる特徴を持っている。その 1つに年間を通した一定の定まったパターンを持つ季節変動をあげることができる。青果物の生産・出荷量には強い季節性があり、その出荷量の季節変動の影響を受け、卸売価格、さらに小売価格まで影響が及んでいる。
　そこで、本研究では鳥取県の市場データを対象に、時系列解析法によって、その変動系列を分析する。特に季節変動の抽出方法について、新たな可変型季節性指数の抽出法を研究開発するとともに、その可変型季節性指数を用いて時系列を定常化し､コレログラム、ペリオドグラム、パワー･スペクトル等周期解析法によって系列の循環周期を確定し、さらにフーリェ解析の手法で振幅・位相を確定し、時系列の循環変動を抽出するとともに可変型季節性 指数抽出法の周期解析に与える影響を考察した。

　本研究で開発した可変型季節性指数の抽出法を連環比率移動(Link Relative Moving:LRM)法と呼ぶ。分析には、主としてN88BASICによって独自に開発したソフトウェアを使用した。分析に用いるデータは鳥取青果物卸売市場と米子青果物卸売市場の野菜主要品目の卸売価格、月別入荷数量データ、及び鳥取県における野菜小売価格の月別データである。その入荷数量、卸売価格及び小売価格の傾向変動(T)、循環変動(C)、季節変動(S)、不規則変動(I)は 乗法的構成になっているものと設定した。つまり、

     O＝T・C・S・I

     　　　　　┌─────────┐
     原データ　│　Ｔ・Ｃ・Ｓ・Ｉ　│
     　　　　　└─┬─────┬─┘
     　　　　　　　├─────┼────３次以内の多項曲線
     　　　　　　　｜　　　　　｜　　　　(誤差による最適推定曲線式の判定)
     　　　　　　　｜　　　　　｜
     　　　　　　　｜　　　　　├────連還比率移動法
     　　　　　　　↓　　　　　↓
     傾向変動　┌───┐　┌───┐
     　　　　　│　Ｔ　│　│　Ｓ　│
     季節変動　└─┬─┘　└─┬─┘
     　　　　　　　└──┬──┘
     　　　　　　　　　　｜　　　　　    (ＴＣＳＩ−ＴＳ)
     　　　　　　　　　　├─────　　────────×１００
     　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　　　ＴＳ
　     　　　　　　　　　↓
     　　　　　　┌───────┐　
     定常変動　　│　　Ｃ・Ｉ　　│
     　　　　　　└───┬───┘
     　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　コレログラム
     　　　　　　　　　　├───────周期解析　ペリオドグラム
     　　　　　　　　　　↓　　　　　　　　　　　　パワー・スペクトラム
     　　　　　┌─────────┐
     　　　　　│　　周期の確定　　│
     　　　　　└────┬────┘
     　　　　　　　　　　├───────調和解析
     　　　　　　　　　　↓
     　　　　　┌─────────┐
       　　　　│　振幅・位相確定　│
     　　　　　└────┬────┘
     　　　　　　　　　　├───────調和項のＦ検定
     　　　　　　　　　　↓
     　　　　　　　　┌───┐
     循環変動　　　　│　Ｃ　│
     　　　　　　　　└─┬─┘
     　　　　　　　　　　├───────ＣＩ／Ｃ
     　　　　　　　　　　↓
     　　　　　　　　┌───┐
     不規則変動　　　│　Ｉ　│
     　　　　　　　　└───┘

1. まず時系列には季節変動が存在しているかどうかを検討する。本研究では77系列を分散分析したが、それによって、月間変動と年間変動の存在を確認することができた。一般的に卸売価格はその入荷量より傾向・循環変動は大きく、季節変動は小さい。それは入荷数量が毎年少しずつ変動しているものの、物価の上昇により貨幣価値が落ち、価格の面では長期的に強い上昇傾向が表れてきた結果である。さらにこれは短期的に見れば、青果物生産は季節による収穫量の変動が強いものの、価格の面では社会的諸要因の影響を受け、人為的にその変動を抑制している結果によるものと思われる。いずれにしても、本論文において分析する系列は強い季節変動を持っていることが判明した。

2. 季節変動の分析法としては連環比率移動法を開発し、青果物の市場流通情報時系列の季節性指数を抽出し、分散分析の手法を使い、抽出した季節変動の有意性を検討し、傾向変動、不規則変動の除去効果を考察した｡さらに､共分散分析の手法によって､経済企画庁が開発したEPA法を利用して抽出した季節変動との相違性を検討した。
   　分析の結果、連環比率移動法により求めた可変型季節性指数は全てF 検定の1%範囲で有意となり、年間変動はほとんど見られない。さらに誤差変動が小さく、不規則変動の除去にはかなり良好な効果が得られることを解明した。さらに､EPA法の可変型季節性指数と連環比率移動法の可変型季節性指数との間にはほとんど差を認めることができなかった。これによって、本研究における時系列定常化については、連環比率移動法による可変型季節性指数を使用することにした。

3. 傾向変動の抽出方法として、本論文では、回帰推定曲線は青果物時系列の傾向変動抽出に最適であることが判明した。その推定曲線の次数は3次以内で適当であり、最適値は誤差判定により決定する｡

4. 時系列定常化の方法としてはハーバード大学経済調査会が発表したものを利用し､その計算式は次の如くである｡

   　　　　     TCSIij−SijTij　　　　　　
        CIij＝───―─―─―─×100　　　(iは年次、jは月次)
   　　　　　　     SijTij
   

   　ここでは季節変動(S_ij)は連環比率移動法による可変型の季節性指数を使い、傾向変動(T_ij)は最小自乗法による3次以内推定曲線の誤差判定による最適推定曲線式を使用した｡

5. 周期解析法としては、コレログラム､ペリオドグラム､パワー･スペクトルの手法を使い、周期を確定する｡分析の結果：
   
   　
   1. コレログラムによる仮定周期の判定は容易であるが、具体的な周期値の判定は難しい。
      　
   2. ペリオドグラムのF検定により、ほとんどの系列に対して偶数周期の確定ができる。しかし､周期不明瞭型又は多重循環周期を持つ系列に対して、周期の確定は難しい。
      
   3. パワー･スペクトル解析ではスペクトルを滑らかにするために､ウィンドー･クロージング(window closing)の方法を利用し､ラグ･ウィンドー打切り数Mを変化させ､それらの結果をコンピュータのグラフィック機能を利用し、作図によって調べた結果､Parzenウィンドーの場合は1/4≦M/N≦1/2､Tukeyウィンドーは1/6≦M/N≦2/3､Bartlettウィンドーは1/5≦M/N≦3/4が良好であることが判明した。以上の結果により､本研究ではParzenウィンドーを用い､ラグ･ウィンドーをM/N＝1/2にした。

6. 循環周期を確認したのち、フーリェ級数(Fourier-series)により、循環変動を抽出した。

　本研究は鳥取青果物卸売市場と米子青果物卸売市場の野菜18主要品目の卸売価格、入荷数量、及び鳥取県における野菜5品目の小売価格、以上の計77系列の24年間における月次データ(小売価格は23年間月次データ)を対象とし､時系列分析の手法を用い、独自に開発した連環比率移動法による可変型季節性指数の抽出法によって、季節変動、傾向変動、循環変動を抽出した。その結果を取りまとめ、以下に示す。

1. 季　節　変　動
   1. 青果物はその特有な性質で、季節性は相当強く存在する。
   2. 青果物の季節変動は年々パターンが変わり、可変的である。
   3. 独自に開発した連環比率移動法は可変型の季節変動抽出法として十分適用できる。
   4. 連環比率移動法の原理は同様に月別平均法、移動平均法による季節性指数の抽出に適用できる。このことによって、時系列加法モデルの季節性分析も可能になる。

2. 傾　向　変　動
   1. 移動平均による循環･傾向線は無難なものである｡
   2. 指数曲線等単純に増加あるいは減少するものは青果物の傾向変動の抽出に不向きである。
   3. 回帰曲線で青果物の傾向変動を表示する場合､次数は3次以内にする必要がある。

3. 循　環　変　動　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
   
   1. 生産、政策、経済等の原因で青果物には循環変動を持つものもある。
   2. 循環変動周期は通常3〜7年である。

4. 不　規　則　変　動
   　青果物の不規則変動は偶然変動である。