鳥取大学農学部 Faculty of Agriculture, Tottori University

教員詳細

准教授

辻󠄀 渉

Wataru TSUJI

所属
附属フィールドサイエンスセンター
担当教育コース
植物菌類生産科学
教育研究分野
作物生産学
主な担当科目
作物学概論,作物学各論,農業基礎演習
研究に関連する高校教科

研究の概要

環境ストレス下での作物生産を向上させて,人類を飢餓から救う!

地球温暖化に伴う気候変動によって,作物生産では乾燥や過湿などの環境ストレスのリスクが高まると予測されています.増え続ける人口に食糧を供給するためには,ストレス耐性を高めた品種の開発に加え,ストレス下での収量を最大化する栽培技術の開発が不可欠です.将来の生産現場での実用化を見据え,作物が元々持っているポテンシャルを引き出す,安価で簡便かつ持続的な「適正栽培技術」を開発することをコンセプトにしています.

乾燥ストレス下におけるソルガム栽培(左上),過湿ストレス下におけるコムギ栽培(右上),およびスーダンにおけるソルガムの乾燥ストレスに関する研究の様子(下)

私の研究の原点は,幼少期に見たスーダンやエチオピアでの飢餓の写真です.「貧困」には様々な要因が関与しているため,これを撲滅することは困難ですが,人々が「飢餓」に遭わないようにすることは可能かもしれません.研究を通じて,このことに少しでも貢献できればと考えています.

主な研究テーマ

ストレスメモリを活用した,耐乾性を強化する作物栽培手法の開発

植物はストレスメモリと呼ばれる『1度受けたストレスを記憶して2度目のストレスに適応するエピジェネティックな(DNAの塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現の制御による)メモリ機構』を有すことが知られています. 作物の種子や苗を対象に,このストレスメモリを栽培技術に活かす研究を行っています.特に, 乾燥ストレス下での出発芽を向上させるSeed hardening (SH,播種前の種子を吸水させてから再乾燥する予措), 乾燥ストレス下での苗の生育を向上させるDrought hardening (DH,幼苗にあらかじめ軽微な乾燥ストレスを与える育苗法)に着目し,最適な処理条件の検討や作用機構の解明に取り組んでいます.

(上)コムギ種子にSeed hardening (SH)処理を行うと,乾燥ストレス下の出芽と初期成長が向上     しました.(下)イネ幼苗にDrought hardening (DH)処理を行うと,乾燥ストレスによる枯死が軽減されまし    た.

水田で栽培できる耐湿性コムギ品種の選抜と育成,および耐湿性を向上させる栽培技術の開発

水稲の作付が減少している水田で,自給率が低いコムギやダイズを栽培できるようになると耕地利用率や食料自給率を高めることができますが,これらの作物は湿害に対して感受的という問題があります. 特に,コムギは開花期に過湿ストレスに曝されると,自己崩壊を起こして茎葉部が急激に枯れ上がり,登熟不良となって大幅に減収することが知られています.そこで,湿害による早枯れを起こさないコムギ品種の選抜・育成と栽培技術の開発に取り組んでいます.特にコムギにタルホコムギ由来の様々なDゲノムを導入した系統群に着目し,耐湿性が高い系統のスクリーニング・評価を行っています.また,耐湿性を高める施肥法の開発にも取り組んでいます.

(左)イネに見えるかもしれませんが,水田が湛水状態になったために過湿ストレスに曝さ      れているコムギの様子です.(右)コムギは開花期に過湿ストレスに曝されると,右の個体のように急激に枯れ上がり,       収量が減少してしまいます.

バイオスティミュラントによる作物の環境ストレス耐性の強化

バイオスティミュラント(Bio-stimulants)は農薬や肥料とは異なり,主に環境ストレスを軽減することを目的に利用される物質や農業資材です.近年,酢酸を施用すると乾燥や高温などのストレスに対する耐性が高まることがモデル植物等で報告されました. この酢酸に加え,安価で世界中どこにでもある食酢(主成分は酢酸)を食用作物や蔬菜に施用することによって,これらの乾燥・過湿などのストレスに対する耐性を向上させる研究を行っています.作物種ごとに最適な処理濃度を検討するとともに,作用機構の解明にも取り組んでいます.また,酢酸以外のバイオスティミュラントの探索も行っています.

ナス(左)やトマト(右)の苗に異なる濃度の食酢を施用すると,対照区に比べて,高温・乾燥ストレス下における苗の活着や成長が向上しました.

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