教員詳細
講師
松田 直樹
Naoki MATSUDA
研究の概要
昆虫の環境適応能力を紐解き、その分子メカニズムを理解する
昆虫は地球上のあらゆる環境に進出し、昼夜や季節などの周期的な環境変化に適応してきました。昆虫の繁栄を可能にした多様な環境適応能力を紐解き、そのしくみを分子レベルで解き明かすため、飼育実験・遺伝子発現解析・ゲノム編集などを組み合わせて研究を行っています。また、昆虫の生理生態機能を改良し、害虫管理などへ応用するための技術開発も行っています。
カラスノエンドウに寄生する2種のアブラムシ
1つの寄主植物にエンドウヒゲナガアブラムシとソラマメヒゲナガアブラムシが混在しています。アブラムシは季節や餌条件などによって劇的に表現型を変化させます。また、栄養の偏った師管液だけを吸って成長することができるのは、体内に保有する共生細菌のおかげです。
主な研究テーマ
アブラムシの季節的な生殖様式の切り替えに関する研究
多くの昆虫は季節的な環境変化に応答して生理・発生・行動などを可塑的に調節しています。なかでも特に目立った季節適応戦略を進化させたのがアブラムシ類です。アブラムシは春から夏にかけて胎生メスが胎生単為生殖によって世代を繰り返しながら増殖する一方、秋に卵生メスとオスが現れ、これらが卵生両性生殖をして産んだ卵が冬を越します。アブラムシは季節を知るうえで、日長や温度といった環境条件を感受することに加え、世代を超える砂時計のようなしくみ(季節タイマー)で春からの経過日数を数えることがわかっています。私たちはこれらのしくみを分子レベルで理解することを目指しています。
エンドウヒゲナガアブラムシの生活史。季節によって異なる生殖様式を行う個体が現れます。
アブラムシと共生細菌との共生に関する研究
栄養の偏った餌のみを利用する昆虫は少なくありません。このような昆虫は体内に共生細菌を保持しており、餌に不足する栄養素を共生細菌に合成してもらうことで栄養不足を解消しています。アブラムシとその共生細菌Buchnera aphidicola(ブフネラ)は共生系のモデルとして盛んに研究されていますが、そのほとんどが実験室内で飼育のしやすい胎生メスを対象としており、季節を通して生殖様式が変わることがアブラムシとブフネラの共生系にどのような影響を与えるかはほとんどわかっていません。私たちは両性生殖世代や幹母におけるブフネラの動態や機能を解析し、単為生殖世代との相違点と共通点を明らかにしようとしています。
エンドウヒゲナガアブラムシと共生細菌Buchnera aphidicola(ブフネラ)の共生系。共生器官細胞のなかに、赤色で蛍光標識したブフネラがぎっしりと詰まっています。抗生物質によってブフネラを除去したアブラムシは体が小さく、不妊になってしまいます。
天敵昆虫のゲノム編集と育種への応用
農業害虫を捕食する天敵昆虫は環境負荷の小さい生物農薬として農業分野で広く利用されています。しかし、これらの防除効果は環境条件によって大きく左右されるため、必ずしも扱いやすいものではありません。そのため、天敵機能をさらに向上させるための遺伝的な改良(=育種)が求められています。私たちは微小農業害虫の天敵であるタイリクヒメハナカメムシのゲノム編集技術を開発し、特定の遺伝子が活動性や捕食性などの表現型に与える影響を解析することが可能になりました。この技術を用いて、農業現場の幅広い環境において高い天敵機能を発揮する有用系統の樹立を目指しています。
ゲノム編集を用いて複眼の色を改変したタイリクヒメハナカメムシ。昆虫の主要な色素であるオモクローム系色素の合成に関与する遺伝子をノックアウトすることで、通常は黒色の複眼が赤色に改変された系統を樹立しました。
