鳥取大学農学部 Faculty of Agriculture, Tottori University

教員詳細

准教授

樋口 雅司

Masashi HIGUCHI

所属
共同獣医学科
講座
基礎獣医学
教育研究分野
獣医生化学
主な担当科目
生化学B、生化学実習、分子生物学実習

研究の概要

下垂体に存在する幹細胞の謎を解明し、動物と人の健康を守る

下垂体前葉はホルモンを分泌して成長、繁殖および泌乳などの生体機能を調節する内分泌器官であり、5種類の細胞がホルモン分泌を担っています。しかしながら、それらの細胞を作り出す「分化」機構の詳細は不明です。我々はホルモン産生細胞の供給源である下垂体幹細胞を組織から分離すること、そして、その幹細胞がホルモン産生細胞へ分化する分子基盤を解明することに挑戦し、その成果を獣医療や畜産へ応用したいと考えています。

下垂体前葉ホルモン産生細胞の起源およびそれらの役割

下垂体前葉に存在する幹細胞から5種類のホルモン産生細胞が供給され、それぞれの細胞から特異的なホルモンが分泌されることによりさまざまな生体機能が制御される。ACTH, adrenocorticotropic hormone(副腎皮質刺激ホルモン); GH, growth hormone(成長ホルモン); PRL, prolactin(プロラクチン); TSH, thyroid-stimulating hormone(甲状腺刺激ホルモン); LH, luteinizing hormone(黄体形成ホルモン); FSH, follicle stimulating hormone(卵胞刺激ホルモン)

主な研究テーマ

下垂体幹細胞を効率的に分離する方法の確立

下垂体幹細胞は、前葉と中葉の間にある遺残腔と呼ばれる隙間に接する細胞層Marginal cell layer(MCL)に高密度に存在しています。しかしながら、既存の方法においてこの細胞を分離するには特殊な試薬や高額な機器が必要でした。そこで本研究では、MCLに存在する下垂体幹細胞を簡便で安価に分離する方法の確立を目指しています。これまでのマウスを用いた研究では、細胞の基本的な性質を利用することで複数種の細胞への分化能をもつ下垂体幹細胞(転写因子SOX2およびPRRX1二重陽性細胞)の分離に成功しました。現在はより効率的に幹細胞を分離する条件の探索および細胞株の樹立に取り組んでいます。【対象動物:マウス、牛、犬】

下垂体幹細胞の局在、分離した幹細胞の特徴および分化できる細胞の種類(黒矢印:分化が確認できた細胞;灰色矢印:分化が確認できていない細胞)

下垂体幹細胞がホルモン産生細胞へ分化する分子基盤の解明

下垂体幹細胞がホルモン産生細胞に分化するには、いくつもの遺伝子の時空間的な発現調節が重要だと考えられています。しかしながら、それぞれのホルモン産生細胞への分化スイッチをオンにし、分化の方向性を決定するマスター因子は同定されていません。これまでの研究では、研究テーマ1で分離した下垂体幹細胞と前葉組織の遺伝子発現を網羅的に比較して下垂体幹細胞において特徴的な発現を示す因子を選抜し、現在、それらの機能を分子生物学的・遺伝子工学的実験手法を用いて解析しています。本研究によりマスター因子が同定できれば、体外培養系において下垂体幹細胞から特定のホルモンのみを作り出すことが可能になります。【対象動物:マウス】

DNAマイクロアレイによる遺伝子発現の網羅的解析結果(橙色の丸:下垂体幹細胞において高発現する遺伝子;青色の丸:下垂体前葉組織において高発現する遺伝子)

下垂体幹細胞を用いた人工下垂体前葉の作製およびその応用

人獣共通の下垂体性疾患である矮小症では、その治療に成長ホルモン製剤を使用します。また、牛の生産技術である人工授精では発情周期や排卵制御のために性腺刺激ホルモン量の調節が必須です。このように動物でもホルモン製剤の利用は一般的ですが、動物に使用する製剤は遺伝子組換え製剤およびヒトや馬血清あるいは尿からの精製物がほぼ全てであり、機能的・免疫学的に各動物に最適なものではありません。そこで各動物の下垂体幹細胞から人工下垂体前葉を作製し、専用のホルモン製剤を開発することを目指しています。これまでにマウス人工下垂体前葉の作製に成功しており、現在、牛人工下垂体前葉の作製に取り組んでいます。【対象動物:マウス、牛】

(A)マウス下垂体幹細胞を三次元培養すると人工下垂体前葉が作製できる。(B)マウス人工下垂体前葉には下垂体幹細胞から分化したホルモン産生細胞(赤)が存在する

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