教員詳細
教授
村瀬 敏之
Toshiyuki MURASE
- 所属
- 共同獣医学科
- 講座
- 病態獣医学
- 教育研究分野
- 獣医微生物学教育研究分野
- 主な担当科目
- 微生物学A、微生物学B、家禽疾病学
研究の概要
からだに潜むミクロの侵入者に挑む
細菌は肉眼では見ることができない単細胞の微生物(原核生物)です。病気を起こす細菌は、動物のからだに取りつき、生きながらえ、増殖するために何らかの戦略を備えていると考えられます。その結果、感染した動物は病気(細菌感染症)になることがあります。なぜ、どのように感染し病気が起こるのか、また、治療上どのような抗菌薬を使用すべきなのかを明らかにすることによって、動物や人の細菌感染症の制御を目指します。
動物から分離した病原菌の解析
細菌感染症の原因となった細菌を確実に分離することが研究の基本です.病変から原因菌を純粋培養し、形態、生化学的性状、遺伝学的性状等を明らかにします.細菌に感染するウイルス(バクテリオファージ)の遺伝子が動物の病気に関係していることもあります.
主な研究テーマ
鶏大腸菌症原因菌の病原学的研究
鶏が大腸菌によって起きる病気(鶏大腸菌症)では、多くの場合、呼吸器から感染し菌が血流を介して全身に移行します。一方、鶏の腸管内には正常菌叢の一員としての大腸菌が棲息しています。したがって、鶏に病気を起こす大腸菌は他の大腸菌にはない性質があるものと仮定し、鶏の大腸菌症の原因となった菌と、健康な鶏の糞便や飼養環境から分離した菌をさまざまな観点で比較しました。人においても尿路感染症や髄膜炎など、経口感染の結果生じる下痢とは異なるタイプ(腸管外病原性)の大腸菌感染症が存在しているので、これら人の疾患の原因菌と鶏大腸菌症の原因菌の関係に興味が持たれます。
大腸菌症に罹った鶏から分離された大腸菌は、保有する病原性関連遺伝子の数に基づき全て病原性あり(APEC)と判断され、特定の遺伝的性状を示すグループ(phylogenetic group F)に大多数が属することがわかりました.
食用動物における抗菌薬耐性細菌の保有と伝播
抗菌薬に耐性を示す(抗菌薬が効かない)細菌が原因の細菌感染症は治療が困難になります。治療などで使われる抗菌薬に耐性を示す菌は、抗菌薬を適切に使用しないと選択され広がってしまいます。食用動物(家畜・家禽)に使われる抗菌薬は人の医療で使われるものと同じものがあるので、食用動物が保有する耐性菌は人の健康を脅かす可能性があります。したがって、食用動物における抗菌薬使用と耐性菌検出との関係、個体間と動物舎間における耐性菌の伝播、抗菌薬耐性に関わる遺伝子(耐性遺伝子)の細菌間の伝播を調査することにより、持続可能な畜産生産のため、どの抗菌薬をどのように使用するか等の指針策定に貢献することが期待されます。
薬剤感受性試験(抗菌薬耐性の程度を調べる試験).調べたい菌をシャーレの寒天培地全面に塗布し、薬剤を染み込ませた円形の濾紙を置き培養します.濾紙から培地に拡散した薬剤に感受性を示す(薬剤が効く)場合は、菌の発育が阻止されるので、菌が生えていない部分の直径を計測し評価します.
細菌感染症の分子疫学
動物の細菌感染症は集団で、とくに、病気を起こす細菌(病原菌)の一つ(菌株)により発生することがあります。この場合、どの菌株が集団発生の原因であったのかを突き止めることが、その病気の制御、感染源の特定、拡大・再発防止のために重要な情報となります。近年では、細菌の分子遺伝学的情報を用いて集団発生の原因となった菌株を特定しています。このような解析を分子疫学と言い、より正確で実用的な手法を開発することが重要です。