教員詳細
准教授
大崎 智弘
Tomohiro OSAKI
- 所属
- 共同獣医学科
- 講座
- 臨床獣医学
- 教育研究分野
- 獣医外科学
- 主な担当科目
- 外科学B、総合参加型臨床実習、臨床獣医学特別講義
研究の概要
がん治療に対するセラノスティクス
セラノスティクス(Theranostics)とは、治療(Therapeutics)と診断(Diagnostic)を組み合わせた、新たに作られた造語・概念になります。従来のがん治療は、造影剤を用いた画像検査によりがんを診断し、その後にがんの治療法を決定して実行します。しかし、セラノスティクスでは、診断に用いる薬を治療に応用することができます。つまり、診断のためにがんに集まった薬が、その場所でがんの治療薬として効果を発揮するということになります。
光増感剤やリピッドバブルを用いたセラノスティクス
光増感剤とレーザー光を用いることで光線力学療法(治療)と光線力学的診断(診断)を行うことができます。また、リピッドバブルと低強度超音波を用いることでがんの新生血管を一時的に開口して効率的に抗がん剤をデリバリー(治療)することできます。さらに、リピッドバブルと超音波診断装置を用いることで、リピッドバブルを造影剤として利用することができます(診断)。
主な研究テーマ
がんに対する光線力学的診断
光線力学的診断に用いる光増感剤は、蛍光物質としての性質を持っています。がんに集積した光増感剤に青色のレーザー光を照射すると、がんが赤色の蛍光を発します。そのため、がんの摘出手術前にがん患者へ光増感剤を投与しておき、術中にがんに青色のレーザー光を照射するとがんの部分が赤く光ります。 赤く光ったがんを切除することで、がん細胞の取り残しの可能が低くなります。また、光増感剤の集積が認められれば、光線力学療法の適応となります。
ネコの皮膚の基底細胞癌。(A)右上顎口唇の皮膚に潰瘍状の腫瘤が認められた(黄色丸)。(B)光増感剤の集積が認められ、腫瘤は赤色の蛍光を発した(黄色丸)。本症例は、心臓病を併発していたために手術が不適応であったが、光増感剤の集積が認められたことから、光線力学療法を実施して腫瘤が退縮した。
がんに対する光線力学療法
光線力学療法は、がんに集まりやすい性質をもつ光増感剤を投与して、一定時間後にレーザー光をがんに照射します。がんに集まった光増感剤が、レーザー光と反応すると活性酸素等が発生して、がんを死滅させます。光線力学療法に用いる光増感剤あるいはレーザー光それぞれ単独では、毒性はほとんどありません。そのため、光線力学療法は、抗がん剤治療や放射線治療と比較して、正常組織への影響が少ないため、生体への負担が少ない治療法です。現在、光線力学療法により誘導される細胞死メカニズムの解明と、より効果的な光増感剤の開発を行っています。
イヌの皮膚の組織球腫。(A)鼻鏡部右外側の皮膚に徐々に増大する腫瘤が認められた(赤色丸)。 (B)外科的に摘出した場合には外貌の変化が予想されたため、光線力学療法を実施した。(C)光線力学療法を5回実施後、腫瘤は消失し、腫瘤のあった部位に発毛が認められた。
リピッドバブルを用いたがんの新生血管オープニングによるがん治療
マイクロバブルは、気体を脂質などで覆い安定化した微小気泡で、超音波検査の造影剤として臨床で使用されています。マイクロバブルの一つであるリピッドバブルと抗がん剤をがん患者に投与した後、外部からがんに低強度の超音波を照射することで、がんの新生血管の透過性が一時的に亢進(がんの新生血管オープニング)します。それによって,がんへの抗がん剤の移行量が増加し、がんに対する治療効果を増強させることが可能となります。このリピッドバブルを用いることで、がんの診断と治療を行うことができるように研究を行っています。