教員詳細
教授
割田 克彦
Katsuhiko WARITA
- 所属
- 共同獣医学科
- 講座
- 基礎獣医学
- 教育研究分野
- 獣医解剖学教育研究分野
- 主な担当科目
- 解剖学,組織学,発生学
研究の概要
がん細胞の形態と運動を制御し、がん転移の予防に貢献する
がんによる死因の約90%は転移によると言われています。がんが原発巣を離れて転移するには「細胞運動の亢進」が関与しており、この運動性を抑えることが出来れば、がんの死亡率を大幅に減らすことが可能です。また、がんの根治は出来なくとも、がんと上手く付き合っていく選択肢も生まれます。これらの可能性を秘めている薬剤として私たちはスタチンに着目し、がんの基礎研究を通して将来的な臨床応用への道を探っています。
がん細胞の細胞特性とスタチン系薬剤の制がん効果との関係
浸潤・遊走・転移しやすいがん細胞ほどスタチンが制がん効果を発揮する可能性があり、がん治療の新たな展開が期待される。
主な研究テーマ
がん細胞の運動抑制に着目したがん転移抑制法の開発
細胞がもつストレスファイバーはアクチンが重合した細胞骨格であり、がん細胞が遠隔転移する際、細胞骨格を再編成して仮足とよばれる突起状の構造物を進行方向に形成します。これは悪性のがん細胞が正常組織に浸潤していく最初のステップであると考えられています。細胞が示すこの形態変化は、RhoやRac、CDC42といった低分子Gタンパクにより制御されていることが知られています。これらの低分子Gタンパクは翻訳後脂質修飾を受けて機能を発揮しますが、スタチン系薬剤は脂質修飾に関わる分子(ファルネシル基やゲラニルゲラニル基)の生合成を抑制します。スタチンがもつこの機能を活かし、現在、新たながん転移抑制法の開発に取り組んでいます。
肺がん細胞のアクチン細胞骨格を可視化した共焦点レーザー顕微鏡像(上)と、細胞の形態変化に関わる分子の模式図(下)。がん細胞が正常組織に浸潤する際には、進行方向に向かって糸状仮足や葉状仮足とよばれる突起状の構造物を伸ばす。
スタチンの制がんスペクトルを広げる薬剤の研究
獣医療で扱う動物では肉腫など間葉系の腫瘍が比較的多くみられますが、一般に人では腺癌など上皮系の腫瘍が多くみられます。スタチン系薬剤は間葉系のがん細胞に対して制がん効果を発揮しやすい一方で、上皮系のがん細胞には効果を発揮しづらいことを私たちの研究室では明らかにしてきました。スタチン系薬剤はがん細胞の主要な代謝系を抑えるため、制がん剤として将来性のある薬剤ですが、スタチンの効果を高め、制がん剤としての適用範囲(制がんスペクトル)を広げることは、スタチンをがん治療に応用していく上で必須の課題です。この課題を解決すべく、スタチンの制がんスペクトルを広げる薬剤の探索を行っています。