鳥取大学農学部 Faculty of Agriculture, Tottori University

教員詳細

准教授

岩崎 崇

Takashi IWASAKI

所属
生命環境農学科
担当教育コース
農芸化学
教育研究分野
生体制御化学分野
主な担当科目
生物活性化学
研究に関連する高校教科

研究の概要

『生体制御分子』を『創る・探す・役立てる』

生きものの最小単位は小さな細胞です。当研究室では、哺乳動物・昆虫・植物・酵母・細菌といった多種多様な生きものが持つさまざまな細胞を用いることで、細胞レベルから生きものの機能の制御(コントロール)に挑戦しています。生きものを制御する『生体制御分子』を『創る・探す・役立てる』という研究を通して、細胞レベルから生きものを制御(コントロール)することで、産業・医療分野で役に立つ技術の開発を目指しています。

『生体制御分子』を創る・探す・役立てる

当研究室では、生きものを制御(コントロール)する『生体制御分子』としてペプチドに注目し、生体制御分子となりうる機能性ペプチドを『創る・探す・役立てる』という目標のもと、研究活動を行っています。

主な研究テーマ

ポリヒスチジンペプチドを利用した薬物輸送技術の開発研究

生きものを構成する細胞の中に、薬を送り届ける技術をドラッグデリバリーシステム(DDS)と呼びます。我々の研究室で発見された新しい細胞膜透過ペプチド『ポリヒスチジンペプチド』は、細胞膜を通り抜けて、効率的に細胞の中に入ることができることから、薬の新しい運び屋としてDDSへの応用が期待されています。 これまでの研究から、ヒト細胞に対しては、ポリヒスチジンのヒスチジン残基数が多くなるほど細胞膜透過能が上昇し、ヒスチジン16残基以上のポリヒスチジンペプチド(H16ペプチド)が、特に腫瘍細胞に対して高い細胞膜透過能を示すことが分かりました(特許第6202707号)。さらに製薬会社との共同研究では、腫瘍(繊維肉腫)を人工的に形成させた担癌マウスの体内において、ポリヒスチジンペプチド(H16ペプチド)は正確にがん組織に集積することが分かりました(Iwasaki et al. 2015, J. Control. Release, 214)。 さらに、これまでの研究より、ポリヒスチジンペプチド(H16ペプチド)は蛍光色素のような低分子から、タンパク質、金ナノ粒子、ウイルスキャプシドのような高分子、さらにはリポソームやリソソームといった大きな膜小胞まで、幅広いサイズの物質を効率的に細胞内へ輸送する能力を有していることが分かりました(Hayashi et al. 2018, BBRC, 501; Hayashi et al. 2019, Molecules, 24; Iwasaki et al. 2020, BBRC, 533; Nakamura et al. 2020, Appl. Sci., 10; Hori et al. 2022, J. Biotech., 354)。これらの研究成果から、ポリヒスチジンペプチド(H16ペプチド)は極めて魅力的なDDS素材であると言えます。現在はさらに研究を進めることで、鳥取大学発の新しい薬物輸送技術を創り出していくことを目指しています。

ポリヒスチジンペプチドのヒト細胞に対する薬物輸送技術

ポリヒスチジンペプチドを利用した植物機能改変技術の開発研究

植物細胞は細胞壁と細胞膜を有しており、さらに細胞壁は高密度な負電荷を帯びています。ゆえに、細胞壁と細胞膜が強固な物理的・化学的なバリアーとなるため、植物細胞内にペプチド・タンパク質や核酸のような極性分子(親水性化合物)が入ることは難しいとされています。しかしながら、これまでの我々の研究より、ポリヒスチジンペプチドは細胞壁と細胞膜を透過し、植物細胞の中に移行できることが明らかになりました(Kimura et al. 2017, Biosci. Biotechnol. Biochem., 81)。 さらに、タンパク質や核酸といった本来は植物細胞に入ることができない化合物についても、ヒスチジン20残基以上のポリヒスチジンペプチド(H20ペプチド)を利用することで、植物細胞内へ簡便に導入できることが分かりました(Tanaka et al. 2021, Biosci. Biotechnol. Biochem., 85)。ポリヒスチジンペプチド(H20ペプチド)の植物細胞に対する高い分子輸送能を応用することで、植物細胞内へ簡便に核酸を導入してタンパク質を発現させる技術(特許第6961202号)や、遺伝子組換えを使わないゲノム編集技術(国際出願PCT/JP2021/046845)を開発しました。現在は、これらの技術をさらに改良しつつ、農業をはじめとした様々な産業分野で役に立つ技術の創出を目指しています。

ポリヒスチジンペプチドの植物細胞に対する分子輸送技術

ヒスチジンリッチな生体制御分子の探索研究

これまでに我々の研究室では、人工的に合成したヒスチジンリッチなペプチド(ポリヒスチジンペプチド)や、ポリヒスチジンペプチドを融合したヒスチジンリッチなタンパク質が高い細胞膜透過を示すことを明らかにしてきました。これらの研究成果より、「自然界に存在する天然のヒスチジンリッチペプチドやタンパク質についても、同様に細胞膜透過をするのではないか?」との仮説に至りました。この仮説を調べるため、現在は様々な「天然ヒスチジンリッチペプチド・タンパク質」について、細胞膜透過と生理機能の解明に挑戦しています。 大変興味深いことに、現在までの研究により、ピロリ菌(Helicobacter pylori)のヒスチジンリッチペプチド(HpHpn)が、ヒト胃上皮細胞や血液脳関門を通過することが明らかになっています。ピロリ菌感染とアルツハイマー病発症は関連があると報告されており、またHpHpnはアミロイド様繊維を形成するためにアルツハイマー病の原因の一つではないかと考えられています。しかし、ピロリ菌は胃に存在する細菌であるため、胃の中で産生されたHpHpnが脳内まで到達するメカニズムはこれまで不明でした。我々の研究では、このHpHpnが胃上皮細胞と血液脳関門をそれぞれ透過することを明らかにすることで、HpHpnが胃から脳内へ移行するメカニズムの一端を解明できました(Iwasaki et al. 2022, Biosci. Biotechnol. Biochem., 86)。 また、別の研究では、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のヒスチジンリッチタンパク質(PfHrp)も同様に、ヒト細胞に対して高い膜透過を示すことが分かりました。熱帯熱マラリア原虫がヒトに感染すると、PfHrpが血中に多量に放出されることが知られています。そのため、PfHrpは熱帯熱マラリアの感染マーカーとして診断に使われています。しかしながら非常に興味深いことに、我々の研究では、PfHrpは様々なヒト細胞内へ透過した後に、細胞毒性を示すことが明らかになりました。この現象は、PfHrpは熱帯熱マラリアの単なる感染マーカーではなく、病原性因子であることを示しています(Iwasaki et al. 2021, bioRxiv)。 このように、「天然ヒスチジンリッチペプチド・タンパク質」はヒトの健康と関連する新しい生体制御分子であることが分かってきました。現在はさらに様々なヒスチジンリッチペプチド・タンパク質の研究を進めており、新しい生命現象の発見を目指しています。

生体制御分子としての天然ヒスチジンリッチペプチド・タンパク質

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