教員詳細
教授
河野 強
Tsuyoshi KAWANO
研究の概要
モデル生物・線虫C. elegansを用い、生命現象を紐解く
ヒトを含む動物は、生育環境(物理的・化学的な外部要因)に応答し、さまざまな生体内反応を組み合わせて生命を維持しようとします。この非常に複雑な仕組みの理解に向けて、ヒトと比べて単純で種々の実験に適した「モデル生物」が利用されます。種々の生命現象の解明を目指す多くの研究者が線虫C. elegans(極めて優れたモデル生物)を用いており、当研究室でもC. elegansを用いた研究を展開しています。
線虫C. elegansの特徴とヒトとの比較
モデル生物・線虫C. elegansとヒトを様々な角度から比較しました。C. elegansはヒトと比べると単純な(故に研究しやすい)生物であることが分かります。しかしながら、遺伝子の約40%は共通の機能を有し、神経細胞数が少ないにもかかわらず高度な生命現象を制御します。まさに「ミニ人間(ヒトのモデル)」として線虫C. elegansをとらえてもよいでしょう。
主な研究テーマ
生育環境に応答した生育・寿命制御機構の解明
線虫C. elegansは生育環境に応答して幼虫生育/停止ならびに寿命を決定します。環境因子(エサ・生育密度・温度)は頭部感覚神経で受容・情報統合され、下流のホルモンシグナルを介して幼虫生育ならびに寿命を制御します。当研究室では、分子生物学的手法・遺伝学的手法・生化学的手法・生物情報学的手法を駆使し、ペプチドを基軸として生育・寿命制御機構の解明を目指しています。現在、①生育環境に応答して初期発動する神経ペプチドとその受容体の同定、②初期発動ペプチド/受容体が制御するホルモンの特定、などを行っています。また、生育停止(休眠)したC. elegansが生育を再開するメカニズムの解明にも力を入れています。
左図は線虫C. elegansの生活環を示します。25度で培養した場合、卵から成虫になるまで約3日です。成虫寿命は約4週間です。生育環境が悪化すると一時的に幼虫生育を停止して休眠します。生育環境が改善されると覚醒し、幼虫休眠を再開します。右図は頭部感覚神経で環境因子を受容し、幼虫生育・寿命を制御する仕組みの概略を示します。まだ未解明の部分が多く、全容解明が期待されています。
生体内タンパクの細胞内輸送分別機構の解明
タンパクなど細胞内で合成された物質は「目的地」に輸送されます。神経細胞・上皮細胞は方向性(極性)を有しており、これらの細胞内で小胞体経由で産生されたタンパクは輸送小胞(乗り物)により頂端膜側、あるいは、側底膜側に輸送されます。それぞれのタンパク質が、①どの輸送小胞に積み込まれ(識別)、②積み荷(タンパク質)を乗せた小胞の輸送方向がどのように決定するのか(分別輸送)、③分別輸送に関わる分子は何なのか、など不明な点が極めて多いのが現状です。当研究室ではモデル生物・線虫C. elegansの腸細胞に着目し、それぞれのタンパクの輸送に関わる分子の同定と輸送方向を決定するメカニズムの解明を行っています。