鳥取大学農学部 Faculty of Agriculture, Tottori University

教員詳細

准教授

中 秀司

Hideshi NAKA

所属
生命環境農学科
担当教育コース
農芸化学
教育研究分野
害虫制御学
主な担当科目
植物保護科学I/II、応用昆虫学特論、分類・生態から分子まで: 昆虫学入門
研究に関連する高校教科

研究の概要

昆虫の様々な生存戦略を解き明かし、害虫防除や保全に生かす

4億年以上前に地上に現れた昆虫たちは、長い進化の過程で様々な生存戦略を進化させてきました。私たちは、主に化学生態学(生物のふるまいと化学物質との関わりを研究する学問)の視点で昆虫の生態や進化の道筋を解き明かし、その成果を害虫防除や希少種の保全などに生かす道を考えます。

合成性フェロモン剤に誘引されたクビアカスカシバ(Glossosphecia romanovi)の雄

スズメバチそっくりですが、なんとこの虫、ガの仲間なのです。
本種はブドウの大害虫で、幼虫がブドウの太い幹に穿孔して幹を枯らしてしまい、年間20億円以上(広島県試算)の被害を与えています。私たちは本種の交尾に欠かせない性フェロモン(交尾の時に使うフェロモン)の成分を同定し、効率的に雄を誘引できるトラップを開発しました。また、このトラップを利用して、本種は「ブドウの大害虫なのに、ブドウはあまり好物ではない」という驚くべき生態も明らかにしました。

主な研究テーマ

昆虫の生態を利用し、持続的かつ省力的な害虫防除法を開発する

古より、人類は悪天候や病害虫を元凶とする飢饉に苛まれ続け、農産物の安定した大量生産は人類の悲願の一つであり続けました。1940年代に強力な殺虫剤であるパラチオンとDDTが実用化され、人類は容易な害虫管理の手段を手中に収めたと思っていました。しかし、殺虫剤に依存しすぎた農業体系は、害虫に高度な薬剤抵抗性を獲得させるとともに農業生態系を破壊し、薬剤散布一辺倒では農業生産が成立しない現実を私たちの前に突きつけました。いま農業の現場では、フェロモン剤や天敵資材の利用、農業生態系の保全と活用など、薬剤散布以外の方法を取り入れた持続的かつ省力的な害虫防除が求められています。私たちは害虫種の生態研究を通じて、そのような農業体系の構築に寄与する技術を開発しています。

京都府のナシ園で、新梢を加害する謎の幼虫が発見され、私たちのもとへ届けられました。数年間の研究の結果、この幼虫は新種であることが分かり、ナシコスカシバ(Synanthedon nashivora)と命名しました。私たちは京都府病害虫防除所、京都府農林水産技術センター丹後農業研究所と共同で本種の生態解明を進め、ナシ樹の加害部位、性フェロモンの成分、発生消長など防除に有用な知見を一気に解明することができました。

昆虫の配偶行動と化学物質の関わりを探る

生活する上で必要な情報の多くを視覚に頼る人間に比べて、昆虫は、外界認識やコミュニケーションに聴覚・嗅覚・味覚を用いる割合が高いとされています。私たちは、それらのうち配偶行動(求愛~交尾に至る行動)に嗅覚や味覚がどんな役割を果たすのかを、いろいろな昆虫を題材として研究しています。また、その成果を害虫防除や希少種の保全に応用する方策も研究しています。

ハラビロカマキリ(Hierodula patellifera)の雌。日本全国に分布するハラビロカマキリは、近縁なムネアカハラビロカマキリ(H. chinensis)が侵入すると急激に個体数を減らすと言われています。私たちは、両種の配偶行動を詳細に観察して、少なくとも両種間に性フェロモンの混線は起きていないことを証明しました(Saji et al. 2022)。

鱗翅目昆虫の性フェロモンはどのような道筋を辿って進化したのか

チョウやガの仲間(鱗翅目/チョウ目)の多くは、雌が性フェロモンと呼ばれる匂いで雄を誘引して交尾します。1959年にカイコの雌が放出する性フェロモンの化学構造が解明(Butenandt et al. 1959, 1961)されて以降、鱗翅目だけでも700種以上の虫で性フェロモンの成分が同定されています(安藤・山本 2023)。しかし、これらの性フェロモンが鱗翅目の歴史の中でどのように進化してきたのかを知ることは、未だ容易ではありません。私たちは性フェロモン進化のミッシングリンクを探し、その道筋を明らかにするための研究を様々な視点で進めています(Naka and Fujii 2020など)。

この図は鱗翅目の系譜(分子系統樹: Regier et al. 2013を基に作図)に、現在までに分かっている性フェロモンの化学構造を重ねたものです。大ざっぱに見ると、性フェロモンの化学構造はタイプ0→タイプI→タイプIIへと進化したように見えますが(Ando et al. 2004, Naka and Fujii 2020)、それ以上に「性フェロモンの情報が全くない」分類群が多いことが分かります。私たちはこれら性フェロモン進化のミッシングリンクを探すため、害虫か否かを問わず様々なガの性フェロモンを研究しています。

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