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青果物は年間を周期とする生産、そして卸売市場を経由する流通形態をとり、他産業製品と著しく異なる特徴を持っている。その1つに年間を通した一定の定まったパターンを持つ季節変動をあげることができる。青果物の生産・出荷量には強い季節性があり、その出荷量の季節変動の影響を受け、卸売価格、さらに小売価格まで影響が及んでいる。短期的には価格弾力性が小さく、市場価格に対する供給反応は鈍いが、長期的に見れば、生産条件、政策、経済状況の移り変わりにより、その季節変動のパターンは年々と変化し、可変的な形で季節変動を表す必要性が生じる。
本研究では、時系列解析法に基づき、従来の連環比率法による固定型季節性指数抽出法とEPA法、センサス局法等による可変型季節性指数抽出法を検討し、より簡単な独立した可変型季節性指数の抽出方法を検討し、両者の合成を試みた。つまり連環比率指数を移動させることによる可変型季節変動を求める方法を研究したものである。
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本研究では時系列解析法に基づき、より簡単かつ有効な独立した可変型季節性指数の抽出方法を検討したものである。この方法を本研究では仮に連環比率移動法(link relative moving method)と呼ぶこととする。連環比率の移動期間について、3年から11年の奇数年移動期間により、予備可変季節性指数を抽出し、傾向・循環変動、不規則変動の各予備可変季節性指数系列への影響を検討し、移動期間による予備可変季節性指数の変化及び季節変動の可変性の評価を検討した。
青果物の季節変動は基準年の前後数年間に影響があると考えられるが、基準となる年に近ければ近いほどその影響力は強いと考えられる。影響力の最も強い期間K年間の連環比率平均値を求めながら1年ずつ移動することにより、その関連性を残し、他の変動要素を取り除く効果が得られると考えられる。この過程により、予備可変季節性指数が求められる。
連環比率移動法による可変型季節性指数のすべてはF検定の1%範囲で有意となり、季節変動の分散比はかなり大きく、傾向・循環変動はほとんど見られない。さらに不規則変動の分散が小さく、短期的要素による偶然変動の除去にはかなり良好な効果のあることがいえる。
EPA法の可変型季節性指数と連環比率移動法の可変型季節性指数とは差を認めない結果となっている。
本研究では新しい可変型季節性指数の抽出方法として、連環比率移動法を検討し、連環比率の移動年間による可変型季節性指数への影響を検討したものである。また、連環比率移動法により抽出した可変型季節性指数を用いて、分散分析の手法で傾向・循環変動、不規則変動の除去効果を検討した。さらに、共分散分析の手法で連環比率移動法とEPA法との可変型季節性指数の差異性を検討した。結果を取りまとめると以下のようなものである。連環比率指数移動法による可変型季節変動指数の抽出方法について
万 里・笠原浩三・仙北谷康
(『鳥取大学農学研究報告』,第49巻,鳥取大学農学部(1996年11月),pp.111〜118)
全文PDF (From Tottori University research result repository)(要 旨)
ここでは連環比率の移動期間を具体的に何年間にすればよいかという大きな問題が残っている。この移動期間が長ければ長いほど、求めた予備可変季節性指数の季節効果分散比が大きくなり、その予備可変季節性指数は固定型に近づく。移動期間はデータ計測期間と同じにすれば、連環比率法による固定型季節性指数の抽出法と同様になり、抽出した季節性指数の可変性が完全に失われることになる。逆に、移動期間が短すぎると、他要素変動の影響が強く、季節変動の規則性がなくなる。以上のことから、移動期間の決定には次の条件を考慮しなければならないといえよう。
そこで、本研究では実際に鳥取青果物卸売市場、米子青果物卸売市場の主要野菜品目の月別入荷数量、卸売価格及び鳥取県における野菜小売価格の合計77系列について、3年、5年、7年、9年、11年間を移動期間として、予備可変季節性指数を抽出し、分散分析した。その結果、5年系列は季節変動の可変性もあり、偶然要素による不規則変動の除去効果がよく、可変型季節変動系列として良いものとなろう。さらに、移動期間の季節変動分散比の増加率を算出し、適正な移動期間を考察することとした。これによると、5年間を移動期間とすることが適当と思われる。
連環比率の移動期間を5年に決め、予備可変季節性指数は5年間移動平均をさせながら計算するため、最初と最後の2年分の値は欠落となり、センサス局法の補欠方法を利用し、補欠した。
これにより、特に著しい不規則変動及び傾向・循環変動が除去した予備可変季節性指数が得られる。しかし、この予備可変季節指数にはまだ不規則変動が残っているので、求めた予備可変季節性指数値に対して年間に3項移動平均を2回繰り返して行い、補欠をする。
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一般に農産物の収穫・出荷量には季節要因を始めとして、さまざまな影響を受け、季節性が強く存在している。特に貯蔵性に劣る青果物は、価格の季節変動が大きい。青果物の供給量は短期的には価格弾力性が小さく、市場価格に対する供給反応は鈍いが、長期的に見れば、生産条件、政策、経済状況の移り変わりにより、その季節変動のパターンは年々と変化し、可変的な形で季節変動を把握する必要性が生じる。
モンテカルロ実験法の成否を左右するのは乱数である。本報告では、野菜の卸売市場入荷数量、卸売価格及び小売価格の現況を分析し、その不規則変動(I)の特徴に基づいて乱数の偏り修正を行い、系列合成を人工的に作成する。乱数の発生はPC-9821コンピュータによる一様疑似乱数であり、さらにボックス・ミュラーの方法により正規乱数を得る。
連環比率移動法は可変型季節性指数の抽出方法として@共分散分析により、EPA法の可変型季節性指数との間に大差が認められないこと。A計算原理が月別平均法、移動平均法にも適用でき、加法モデルの可変型季節性指数も抽出できること。B抽出した可変型季節性指数はEPA法のものより真の値との差がやや小さいこと。C10,000回実行の所用時間が連環比率移動法は1時間半に対し、EPA法は15時間はかかったことなどの幾つかの特徴を持つが、計算方法が簡便で、求めた可変型季節性指数は単独で操作性に富み、実用性が十分と認められる。
連環比率移動法とEPA法の季節性指数に関するモンテカルロ実験
万 里・笠原浩三・仙北谷康
(『地域農林経済学会大会報告論文集』,第5号,地域農林経済学会(1997年3月),pp.109〜114)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
さて、これまでの可変型季節性指数のほとんどはその固有のプログラムにより計算され、またその計算方法はかなり煩雑である。本研究では、時系列解析法に基づき、連環比率を5年間移動させながら、より簡便な可変型季節性指数の抽出方法を検討し、モンテカルロ実験法により、その連環比率移動法と従来のEPA法の可変型季節性指数抽出法の差異性を検討するものである。
モンテカルロ実験では実験対象とする系列が必要であるが、乗法的構成を仮定してその系列を人工的に合成した。かくして、連環比率移動法、EPA法により、それぞれ各系列における24年間の月別データを分析し、傾向変動(T)季節変動(S)、循環変動(C)の代表的なものを選び、原始系列を人工的に合成する。さらには青果物時系列変動の下方硬直、上方伸縮の分析結果により、乱数を修正し、最終系列を合成した。
人工的に合成した系列を連環比率移動法、EPA法それぞれにより可変型季節性指数を抽出する。系列合成から可変型季節性指数抽出まで10,000回実行し、2方法でそれぞれ抽出した可変型季節性指数についてを比較考察を加えるものとする。
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農産物価格はその生産特性により,卸売価格,消費者価格ともに他財に比較して激しい変化を示す。特に青果物では,市場取引には鮮度が要求されるうえ,貯蔵性能が劣るため価格に対する供給変化は硬直的で非弾力的である。青果物市場価格の月別あるいは4半期別情報時系列には,季節変動,傾向変動,循環変動,不規則変動が含まれている。こうした青果物市場情報時系列の各変動を解析する1つの方法として時系列解析法があげられる。
国内農林水産物総合卸売物価指数及び食料品消費者物価指数により,月別リンク係数をつくり,1980年を100とする指数とし,作図した結果:
分散分析の結果を比べるとわかるように,実質価格と名目価格の間には季節変動の分散比が異ならないものの,実質価格においては傾向・循環変動の分散比はデフレートすることによりわずかであるが増大している。つまり,デフレートすることにより,物価指数に含まれているある種の中長期変動が名目価格に新たに付加されたものと考えられる。言い換えれば,実質価格の循環変動あるいは傾向変動は名目価格とは実質的には異なる変動をしていると考えられることである。
分析した43系列のすべてがグラフ上では季節性指数の変動パターンにはほとんど差を確認することができない。統計学では差があるか否かを確認するために共分散分析法に基づいて,F 検定を行った。その結果,小売価格,卸売価格にかかわらず,すべての系列について,同一品目の実質価格,名目価格のそれぞれによる可変型季節性指数にはF検定の1%範囲で相異がない結果となっている。
ここでは,実質価格,名目価格はそれぞれの傾向変動にどのような影響を与えるかについて,最小自乗法により3次以内の回帰曲線を推定し,標準誤差に基づいて考察した。目別に計算していくと,一部分の野菜品目について,実質価格,名目価格それぞれの回帰推定曲線による傾向変動には相異があることが判明した。
実質価格,名目価格の循環変動に対する影響を解明するため,本稿ではパワー・スペクトル解析により循環周期を検出し,フーリエ級数に基づき循環変動を抽出し,比較検討を行った。本稿で分析した43品目では10年内に循環変動のない品目を除き,ほとんどの品目において,実質価格,名目価格それぞれの基本循環周期及び循環変動の振幅が同じものである。ごく一部分の品目(かぶ,しめじ,ゆず,生椎茸,エノキダケ)の卸売価格では単振動の微小な変化により実質価格,名目価格の循環変動のパターンが相似であるが,共分散分析及びF検定の結果に相違があると判断された。つまり価格のデフレートにより循環変動解析に影響を及ぼしていることとなる。
実質価格及び名目価格に関する時系列変動分析
万 里・笠原浩三・仙北谷康
(『鳥取大学農学研究報告』,第50巻,鳥取大学農学部(1997年11月),pp.75〜82)
全文PDF (From Tottori University research result repository)(要 旨)
時系列解析に用いる価格データは実質価格であるかあるいは名目価格であるかによって,解析結果が大きく異なる。ほとんどの価格統計調査では調査時の価格による,いわゆる名目価格である。しかし,経済の変動により貨幣価値が常に変化しており,貨幣価値の変化は直接販売価格に影響している。ここで物価指数により名目価格データをデフレートすれば,一定の時点に固定した貨幣価値での価格が求められ,いわゆる実質価格となる。ここに同一品目の農産物に対し,実質価格,名目価格それぞれの時系列解析はどのように異なるのかという点は,解明すべき重要な課題が生じることとなる。
そこで,本稿は青果物の卸売価格及び小売価格を用い,実質価格,名目価格のそれぞれについて季節変動,傾向変動,循環変動を分離し,その結果を比較検討する。名目卸売価格のデフレートでは国内農林水産物総合卸売物価指数を使用し,名目小売価格に対しては消費者の関心の最も深い食料品消費者物価指数を適用する。長期の物価指数については,月別リンク係数をつくり,1980年を100とする指数とした。
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畜産物の市場価格は通常の経済原理をベースに,その生産量と相反的な周期変動を有する。これまでに畜産物循環変動に関する研究が数多く行われているが,そのほとんどは計測期間内は周期と振幅が一定の固定的なものであり,つまり変動波形は固定型として表している。しかし,長期的にみれば飼育技術の進歩,貯蔵手段の発達,経済事情の変化等により畜産物の循環周期及び振幅が変化しつつあり,すなわち可変型で循環性を表すことが要求される。
循環変動抽出の流れとして,よく使われるのは定常化系列のコレログラム,ペリオドグラム,パワー・スペクトル等周期解析による基本周期を確定し,調和解析により有意な調和項を検出し,フーリエ解析により多単振動で合成された循環変動を三角関数で算出する方法である。このような通常の計算流れにしたがうと,抽出される循環変動は固定型となる。
まず計算区間の長さを決めなければならない。その計算区間を決定するときには循環周期の長さと密接な関係がある。区間が長ければ長いほど分析精度が高くなるが,その反対には抽出した循環変動は固定型に近づく。逆に,計算区間が短すぎると区間基本周期検出の分析精度が落ち,不正確な結果となるおそれがある。ここでは定常化系列に基づき基本周期を確認した。鳥取市鶏卵小売価格の場合,循環周期は期間により変化しているものの,5年前後にあることが確認できる。周期解析には基本周期の3倍の長さのデータが必要であるという意味で,計算区間は15年間とした。
計算区間によりまずパワー・スペクトルにより基本周期を確定する。ラグ・ウィンドーについてはParzenウィンドーを使うこととする。Parzenウィンドーは周期の分解能を高めるために,ウィンドー・クロージング(window closing)の手法を利用し,打切り数Mを適当に増大することにより分解能を高めることにした。その結果,Parzenウィンドーの場合では打切り数対分析データ総数の比率は1/4≦M/N≦1/2の範囲は適当であることを判明した。本論文ではパワー・スペクトルにより周期を検出するとき,打切り数Mを計算区間データ総数の1/2,つまり計算区間15年間の月別データの場合M=90にした。
可変型循環変動を抽出するために,時系列定常化をするとき,各計算区間毎に傾向変動,季節変動を計測し,区間毎の系列について定常化を施すか,或いは全計測期間についてまず定常化してから,定常系列により計算区間に分けて可変型循環変動を抽出するかによって,抽出された可変型循環変動にどのような影響を与えるかについて分析考察した。その結果,2系列間には統計的に有意な差を認めることができない。これによって,計算効率を考え,可変型循環変動を抽出とするとき,まず全計測期間データを用い,時系列定常化を施した後,計算区間を決め,可変型循環変動を抽出することとする。
鳥取市鶏卵小売価格の可変型循環周期を時間の関数とした回帰曲線を推定し,(2)式のフーリエ解析により可変型循環変動を抽出する。この場合,これまでの可変周期pを回帰曲線推定により4次回帰式で定義した。可変型循環変動においては基本循環周期が徐々に長くなる。つまり,鶏卵小売価格の周期は時間の関数であり,近年において周期を増長する傾向があるものと思われる。
本論文は,鳥取市鶏卵小売価格1975年から1996年までの22年間月別データを使い,可変型循環変動の抽出方法を検討したものである。その分析結果をとりまとめると次のようなものである。
畜産物価格の可変型循環変動の抽出について
万 里・笠原浩三・松原茂昌・仙北谷康
(『地域農林経済学会大会報告論文集』,第6号,地域農林経済学会(1998年3月),pp.7〜12)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
そこで本論文では鳥取市鶏卵小売価格を分析材料とし,畜産物の可変型循環変動の抽出方法を検討し,より現実かつ的確な循環変動の抽出方法を試みることとした。
ここで考えたのは全計測期間を計算区間に分け,各区間毎に循環変動を抽出し,それぞれ抽出した各区間循環変動の平均値により全計測期間の循環変動とする方法である。
パワー・スペクトルにより検出された周期は誤差によるものかどうかについて,検出される周期の前後6ヶ月,合計1年間についてF(1%)で検定を行った。基本周期のF検定に当たって前後いくつかの周期がともに有意水準に達した場合にはF検定値が最大となる周期値を基本周期とした。
基本周期を検出したあと,フーリエ級数に基づき,計算区間の循環変動を抽出し,さらにこれを1ヶ月ずつ移動する。各区間の循環変動を抽出した後,算術平均により最終的に全計測期間の可変型循環変動を算出した。
鶏卵の循環周期が長くなった理由の1つとして,大規模養鶏農家の増加に密接な関係があると思われる。つまり,規模の大きい農家にとっては鶏卵の市場価格に敏感に反応せず,一定の対応策をとり,市場価格の回復を期待するのである。加えて鶏卵価格保証政策があり,価格が下落しても保証価格により一定程度の経営がなりたつことから,市場に対する反応が鈍感になる。これらの影響は鶏卵の循環周期に反映し,循環周期を変化させたことであると思われる。
本論文は循環周期を時間の関数としたフーリエ解析による可変型循環変動を求めたが,一般に可変型循環変動において,振幅についても時間に伴い変動し,つまり,振幅も時間の関数として捉える必要がある。振幅を時間の関数とする可変型循環変動の計測は今後の課題とする。
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本稿ではまず青果物の実質価格,名目価格における時系列解析の適合性を検討する。第2に中央卸売市場と地方卸売市場それぞれにおける青果物卸売価格及び小売価格を用い,可変型季節変動の特質を明らかにするとともに,中央卸売市場,地方卸売市場の相互関連性を検討する。
季節変動について,東京都中央卸売市場,鳥取青果物卸売市場における青果物卸売価格を用いて,連環比率移動法による可変型季節性指数を分析し,最近15年間の変化傾向及び変動パターンの形状に即して整理した。これにより,まず季節変動の振幅は徐々に大きくなるものと逆に次第に小さくなるものに分けられ,さらにその変動のパターンは年間ピークが単一の単峰型と,2つ以上有する複峰型に分けられる。近年では青果物季節変動のパターンは複峰型の品目が多くなり,変動幅が逓減し,価格が安定してくる品目が多く見られる。
本稿は東京都中央卸売市場,鳥取青果物卸売市場の卸売価格及び鳥取市青果物小売価格を分析対象とし,時系列解析の手法を用いて,実質価格,名目価格それぞれにおける時系列解析の影響を検討し,青果物価格変動の特質と市場間価格変動の相互関連性を明らかにしようとしたものである。結果をまとめると以下のようなものである。
青果物価格変動の特質と市場間の相互関連性について
万 里・笠原浩三・糸原義人・仙北谷康
(『農業経営研究』,第36巻,第1号,日本農業経営学会(1998年6月),pp.137〜142)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
季節変動の抽出については,連環比率移動法による可変型季節性指数を利用した。傾向変動は最小二乗法による回帰推定曲線を傾向変動曲線とした。循環変動の算出には,パワー・スペクトルにより循環周期を検出し,フーリエ級数に基づき青果物価格系列の循環変動を算出した。かくして同一品目における実質価格,名目価格それぞれにより抽出した各種の変動について比較検討し,物価指数でのデフレートによる時系列解析への影響を考察した。結果として,物価指数によるデフレートでは時系列解析における季節変動の抽出には影響を与えないものの,傾向変動,循環変動の抽出には差が出てくる結果となっている。
物価指数は経済変化の状況を反映するためにつくられたものであり,作成にあたって数多くの農産物価格をとり,ウェイトづきで平準化したものであり,いわゆる総合指数である。しかし,このような総合指数を用いて各々の品目をデフレートすることは時系列解析においては不合理な側面をもつものであると思われる。個別品目においてはその生産,流通,消費の特性があり,その特性により各々の季節変動,傾向変動,循環変動が生成される。これらの変動は必ずしも社会全体の平均変化率と一致するものではないと考えられる。
つまり,平均変化率を表す物価指数では実際の経済過程内に起こるあらゆる変化の総合効用により,お互いにその変化を相殺することはありうることであろう。したがって物価指数によるデフレートした実質価格での時系列解析は傾向変動及び循環変動にはその品目がもつ本来の変化以外の長期総合要素による影響が含まれることとなり,不適当となる。各々の品目価格変動の特性を消滅させないために,時系列解析により季節変動,傾向変動,循環変動を抽出する場合,名目価格を使用するのが至当と考えられる。
循環変動について,青果物中央卸売市場と地方卸売市場において,卸売価格の循環変動はその循環周期が異なる。中央卸売市場では10年以内の循環周期を持たない品目が多い。青果物の循環変動は一般的に,周期が7年間以下の品目が多い。
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異なる季節性調整指数による循環変動,不規則変動への影響を検討し,総合効果により季節性指数を評価した.パワー・スペクトル解析により周期を検出し,連環比率法,EPA法,連環比率移動法それぞれによる不規則変動を比較した.その結果:
新可変型季節性指数とその評価に関する研究
万 里・笠原浩三
(『農林業問題研究』,第34巻,第1号,地域農林経済学会(1998年6月),pp.10-18)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
本稿はいままでの固定型,可変型季節性指数抽出法を学習し,新しい可変型季節性指数の抽出法を開発した.この方法は本稿では連環比率移動(LRM)法と呼ぶ.モンテカルロ実験法を用いて,連環比率移動法の可変型季節性指数の適合性を検討し,日本国経済企画庁が開発したEPA法との比較を行った.
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周期・振幅を可変型とする循環変動の抽出法
万 里・笠原浩三
(『農業経済研究』,第70巻,第3号,日本農業経済学会(1998年12月),pp.148〜156)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
経済時系列の循環変動を長期的に見れば社会経済,政策,技術進歩等諸条件の移り変わりによりその周期,振幅が可変的である.しかしながら可変型循環変動の研究はこれまで極めて少数を数えるのみである.そこで本研究では新しい可変型の循環変動抽出法を開発提示する.ここでは周期,振幅はそれぞれ不変,増大,減少の組み合わせにより9系列25年間月別合成サンプルデータ,及び実際の経済系列として鳥取市鶏卵小売価格1975年から1996年までの22年間月別データを利用し,可変型循環変動の抽出法を試みた.まず定常化系列による自己相関係数を計測し,仮基本周期を検出した.仮基本周期の3期間分を計算区間とし,この計算区間のデータ系列を用いてパワー・スペクトル解析及びF(1%)検定により基本周期を確定した.調和解析により有意な調和項を残し,フーリエ級数により区間循環変動を算出した.そして1期ずつ移動した.各区間循環変動の算術平均値を予備可変型循環変動とした.区間循環変動の周期,振幅の算術平均系列での回帰分析により時間tの関数式を求め,これらをフーリエ級数に代入し,可変型循環変動を抽出した.
この方法により抽出した可変型循環変動,従来の方法により抽出した固定型循環変動それぞれと原サンプル系列,または定常化系列との偏差を算出した結果:可変型循環変動での偏差は固定型循環変動での偏差より小さい.つまり,本研究で提示した可変型循環変動の抽出法は実用性があり,抽出した可変型循環変動はより真の変動に近いことが判明した.
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連環比率移動法による可変型季節変動の吟味
万 里・笠原浩三
(『1999年度・日本農業経済学会論文集』,日本農業経済学会(1999年12月),pp.248〜253)
(要 旨)
本論文では連環比率移動法の計算原理を月別平均法,移動平均法のそれぞれに適用し,その実証分析の結果に基づいて,連環比率移動法の計算原理は連環比率値だけではなく,月別平均値,移動平均値にも応用できることを実証した。
その分析結果をとりまとめると以下のとおりである。
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畜肉価格変動の特質と可変型循環変動の分析
万 里・笠原浩三
(『農林業問題研究』,第35巻,第4号,地域農林経済学会(2000年3月),pp.250〜255)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
この論文では牛肉を中心とした循環変動の分析でパワー・スペクトル解析の手法により周期を検出し,固定性,可変性の両面から接近することによって,畜肉時系列解析のあり方について検討するものである。さらに牛肉の周期が変調してきたと指摘されていることから,その周期変調の原因を分析した。結果は以下のとおりである。
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生鮮食料品の生産・流通・消費の構造変化及び今後の課題
万 里・笠原浩三
(『鳥取大学農学部研究報告』,第53巻,鳥取大学農学部(2000年11月),pp.81〜88)
全文PDF (From Tottori University research result repository)(要 旨)
この論文では,最近の市場流通変貌をまとめた。生鮮食料品の卸売市場外流通数量が年々と増加したことにより,販売価格の不透明化,農協の合併等による出荷団体の拡大と卸売市場供給者数の減少,スーパーマーケット等量販店の普及による小売業者の大型化等,これらの変化は市場価格に対する影響を検討考察した。また,生鮮食料品の流通特徴,いわゆる価格の不安定性と非弾力性について説明した。グローバル化情報社会が進む国際社会においては,高品質,低価格による競争力の強化は生鮮食品の自給率を向上させる重要な課題である。
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可変型季節変動及び可変型循環変動による時系列予測に関する研究
万 里・笠原浩三
(『農林業問題研究』,第36巻,第4号,地域農林経済学会(2001年3月),pp.276〜282)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
農畜産物は人間の生活,生命維持に不可欠なものであり,その価格変動は直接生産農家の所得変動をもたらすことから大きな農業問題の1つと考えられ,一方,消費者にとっても,安定的な食料品の供給が要求される。従って,この価格変動の解明及び予測は生産者及び消費者にとって非常に重要な課題である。農畜産物価格変動の解析及び予測手法の1つとして時系列解析が挙げられる。時系列解析の大きな目的の1つは,いままでの変動規則を解明した上で,今後の変動方向を予測することである。本研究では連環比率移動法による可変型季節性指数,特に周期・振幅ともに時間tの関数とする可変型循環変動の解析をポイントにして,鳥取青果物卸売市場の山の芋,甘薯卸売価格1975年から1998年までの月別時系列データ,鳥取市鶏卵小売価格1975年から1998までの月別時系列データを分析対象とし,可変型季節変動及び可変型循環変動による農畜産物価格変動予測の可能性について検討したものである。
まず1975年から1997年までの時系列データを用いて,回帰解析による傾向変動,連環比率移動法による可変型季節性指数,周期・振幅ともに時間tの関数とする可変型循環変動を抽出し,それぞれ未来1ヵ年(つまり1998年の値)の予測推定値を算出する。次に予測推定値を含めた各変動要素系列により,予測合成系列を求める。最後に,原データ系列と予測合成系列との共分散分析及びF検定による比較分析を行い,可変型季節性指数,可変型循環変動を用いたことによる時系列予測の可能性について検討したものである。
季節変動,循環変動について,長期的に見れば自然条件,経済政策,生産環境等諸要素変化の影響を受け,経済時系列の季節変動は可変的であり,季節変動の解析において,可変型季節変動を抽出すべきである。また,循環変動の周期及び振幅は時間の推移により変化し,時間tの関数とする循環変動を解析することが適当であると考えられる。
原データ系列と予測合成系列との比較検討の結果,解析した3系列ともに原データ系列と予測合成系列との間に差があるものの,非常に相似している。その差は計算誤差及び予測不可能な不規則変動の影響等によるものと考えられる。また,共分散分析の結果,各品目それぞれの原データ系列と予測合成系列との間には有意な差を認めることができない。このことによって可変型季節性指数,可変型循環変動による時系列予測が可能なものであると思われる。
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農畜産物価格変動の予測に関する研究
万 里・笠原浩三
(『鳥取大学農学部研究報告』,第54巻,鳥取大学農学部(2001年11月),pp.63〜70)
全文PDF (From Tottori University research result repository)(要 旨)
本研究は農畜産物の時系列データを解析材料とし,その価格変動について,回帰解析による回帰傾向線,連環比率移動法による可変型季節性指数,周期・振幅をともに時間tの関数とする可変型循環変動の解析方法で,数理解析による価格変動の予測を検討したものである。予測合成系列と原データ系列との共分散分析により,両系列間には有意な差を認めることができない結果となっている。よってこの方法による時系列予測は可能であると思われる。
また,鶏卵小売価格について,政策面・実態面を踏まえ,その価格変化を長期的に分析した。傾向変動では,大規模養鶏によるコスト低減等要素の影響により,鶏卵価格は低下してきた。季節変動では,お正月と夏季の消費低迷で,鶏卵価格は年間に渡って,2つのピークとなる複峰形である。循環変動では,政府が価格形成に介入し,いわゆる最低価格保証制度により経営者所得の保証を行い,加える大規模養鶏等を原因に,養鶏農家は市場の価格変動に対する反応が慎重となり,鶏卵価格循環変動の周期を増長している。
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ネギ,しいたけの輸入と国内生産・消費に関する分析
万 里
(『農林業問題研究』,第37巻,第4号,地域農林経済学会(2002年3月),pp.359〜364)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
2001年4月23日に日本初の一般セーフガードの暫定措置が発動され,対中国の輸入ネギ,生しいたけ,畳表を200日にわたって関税率の増加により制限したものである。本論文は市場情報を用いて,ネギ,しいたけの輸入と国内生産・消費の関係を解析した。結果として,輸入の増加による国内小売価格が下落し,価格への影響は中央卸売市場所在地の大都市が受けやすい。クロス・スペクトル分析により,ネギの場合,小売価格が輸入量より約1ヶ月前後先行し,つまり,小売価格の昇降によって1ヶ月前後のタイム・ラグを経て輸入量が増減する。生しいたけの場合,輸入量は小売価格より先行し,輸入量の増加により,早い場合,11日後に小売価格が下落する等ことを明らかにした。
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実質価格,名目価格それぞれにおける時系列予測に関する研究
万 里・笠原浩三
(『農林業問題研究』,第40巻,第1号,地域農林経済学会(2004年6月),pp.64〜69)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
農畜産物の市場価格は常に変動していることは周知のとおりである。この中で,特に市場取引に鮮度が要求され,長期保蔵に効かない生鮮食料品について,その価格は毎日変化し,価格不安定の性質を持っている。このような価格の乱高下は,ときには社会の不安定が引き起こされる。一方,生産農家にとってはより安定的な収益を得るために,価格の安定が要求され,消費者にとっても安定的な供給が望まれる。生鮮食料品の価格を安定させるために,価格予測は1つの手段である。その方法の1つには時系列解析による価格予測の方法がある。ところで,価格データの中で名目価格,実質価格の2種類があり,いままで多くの経済分析には実質価格が利用されている。時系列解析による価格予測を行う場合,どの種類の価格を利用すればより現実的な結果が得られるかは重要な課題である。
そこで,本論文では卸売価格,小売価格の10品目,27年間の月別時系列データを利用し,名目価格,実質価格それぞれを用いて価格予測を行い,予測結果系列と解析時に用いた価格系列との平均差によって,時系列解析による価格予測を行う場合,名目価格,実質価格のどちらを利用すべきかの解明を試みたものである。
分析データとして,東京都中央卸売市場におけるゴボウ,ネギ,カンショ,里芋,長芋,タマネギ,ニンニク,根しょうがの月別平均卸売価格,鳥取市における鶏卵,タマネギの月別平均小売価格,計10品目1976年〜2002年の27年間の時系列データを用いた。実質価格の算出において,卸売価格には,日本銀行が発表した国内農林水産物卸売物価指数を適用し,小売価格には,総務省が公表した食料品消費者物価指数を利用した。
分析方法として,まず名目価格,実質価格それぞれの1976年〜2001年の時系列データを利用して傾向変動,季節変動,循環変動を算出し,2002年度の予測値を算出した。次に算出した傾向変動,季節変動,循環変動による系列合成を行い,予測系列を算定した。予測系列と解析系列の共分散分析により有意性を検討した。最後に予測系列と解析系列との平均差を算出し,名目価格,実質価格それぞれによる時系列予測の適合性を検討した。
名目価格による時系列予測を行ったの場合,予測系列と名目価格系列との平均差,10品目の平均値は50.47あり,実質価格の場合,予測系列と実質価格系列との平均差,10品目の平均値は54.38であった。結論として,名目価格による時系列予測の結果はより現実の値に近く,時系列解析による価格予測を行う場合,名目価格を採用すべきである。
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中国における米生産低迷の原因分析と今後の予測
万 里
(『第10回 世界のコメ・国際学術調査研究報告会・シンポジウム』(2005年3月),pp.121〜128)
全 文 (From worldfood)(要 旨)
本研究では1949年から2003年までにおける中国の米生産面積,総生産量,及び1992年から2003年までの市場価格データを用いて,近年の中国における米生産低迷の原因を分析し,今後の変化について予測を試みた。その結果として,1997年から米の市場価格が下落したが,これは備蓄米の大量市場投入によることである。しかし,1998年から連続6年間の収穫量減少により,備蓄が大幅に減少し,米の市場価格が再び上昇すると予想される。ただ,急速な経済発展に伴う工業開発,住宅地及び娯楽施設の建設などにより,耕地面積が年々と減少し,加えて水資源の不足により,米生産面積の大幅な拡大は期待できない。また,生活水準の向上による肉類消費の増加に伴い,1人当たりの年平均穀物消費量が減少し,今後では中国国内の米消費量が減少すると予想される。
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外交講座「日中関係と日本政府の対中外交努力」
万 里・崎原麗霞・韓 燕麗
(『鳥取大学教育研究年報』,第15号,鳥取大学教育センター(2010年3月),pp.43〜46)
(要 旨)
2009年6月13日に,外務省大臣官房審議官を招いて鳥取大学で外交講座を行い,受講者193名にアンケートを配布し,回収した184枚(回収率95.3%)の結果を分析したものである。その結果,学生の多くは現在の国際情勢に関心があるといえる。また,外交講座を通して,あまり知らされていない日中間における認識の違い,外務省の中国外交への努力などを知り,外交政策の重要性及び外交への関心を持たせることができた。
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ピッグ・サイクル変調の原因分析
万 里
(『農林業問題研究』,第46巻,第1号,地域農林経済学会(2010年6月),pp.120〜125)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
日本の豚肉市場は,1971年から豚肉の輸入が自由化され,80年代初頭から循環変動が徐々に変調し始めた。本研究では中央卸売市場豚枝肉卸売価格などを用いて,センサス局法X-12-ARIMAによる季節調整,パワースペクトルによる周期解析,重回帰分析などの手法で,近年におけるピッグ・サイクル変調の原因解明を試みた。その結果,@ 周期解析では,豚枝肉卸売価格の循環周期は62ヵ月であり,従来の3〜4年間より増長した。A 大規模経営により,市場価格変動に伴う経営規模の変化が難しいことはピッグ・サイクル周期変調の1因として考えられる。B 配合飼料価格はピッグ・サイクルに影響を与える。配合飼料価格の上昇により,一定のタイム・ラグを経て豚枝肉卸売価格が上昇する。
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牛肉の生産・価格・消費変動及び価格変動の要因分析
万 里
(『農業経営研究』,第50巻,第1号,日本農業経営学会(2012年6月),pp.52〜57)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
本論文は,時系列分析,重回帰分析の手法を用いて,1989年(平成元年)から2010年(平成22年)までにおける牛肉の生産,輸入,価格,消費変動状況の月別データを解析し,国内牛肉生産量,牛肉輸入量が種類別牛枝肉卸売価格変動に与える要因を分析した。
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国内飼料価格と国際市場価格変動との関連性分析
万 里
(『農林業問題研究』,第49巻,第1号,地域農林経済学会(2013年6月),pp.183〜187)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
周知のとおり,日本の畜産業の基礎となる飼料の大部分は輸入に依存しており,近年では総合飼料自給率は25%前後で推移し,なかで飼料の8割弱を占める濃厚飼料の自給率は10%未満で推移している。本研究は国際市場価格の変動が国内飼料価格に及ぼす影響に着目し,近年では国際市場における飼料穀物の価格高騰,円高などで国際情勢が大きく変化するなか,国際市場価格が国内飼料価格へ及ぼす影響度合の解明を試みた。結果は以下のものである。
@ とうもろこし輸入量,国内飼料生産量は必ずしもとうもろこし輸入価格とは関連性がなく,とうもろこし輸入量は2003年をピークに減少傾向にある。肉用牛,豚の総飼養頭数が伸び悩むなか,乳用牛総飼養頭数も減少している。
A 時系列相関係数を利用して分析した結果,CBOT(Chicago Board of Trade)とうもろこし期近物相場はとうもろこし輸入価格,国内配合飼料価格より4ヵ月先行することを解明した。また,とうもろこし輸入価格と国内配合飼料価格は同時変化していることを明らかにした。
B 国内配合飼料価格を被説明変数とし,CBOTとうもろこし期近物相場,為替相場,海上運賃を説明変数とした重回帰分析の結果,国内配合飼料価格の決定に最も影響しているのはCBOTとうもろこし期近物相場であることを明らかにした。
C 配合飼料価格安定制度のもとで,飼料価格高騰時に補てん金が交付されている現在,国際市場価格の変動は国内飼料価格へ10〜15%前後の影響を与え,補てん金財源の不足が懸念され,今後の進展に注目されたい。
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大都市における青果物直売の消費者調査及び購買行動のAHP分析
万 里
(『農業市場研究』,第23巻,第2号,日本農業市場学会(2014年9月),pp.53〜59)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
本論文は消費者調査及びAHP分析を用いて,消費者が青果物を購入するときの判断基準及び農産物直売に対する期待の解明を試みた。その結果,消費者がもっとも重視するのは新鮮さ,国産品,献立・調理に合わせることであり,75%の消費者は輸入品より国産品を重視する。直売規格外品の値段について,4割ほどの消費者は安価へ期待し,年齢が高くなるにつれ,規格外品の安価販売に期待する消費者の比率が増える傾向にあることなどを明らかにした。また,AHP分析では,青果物購入場所の総合順位において,農産物直売店の重みベクトルが0.46でもっとも大きく,消費者が求める新鮮さ,国産品,旬のものなどの青果物に対する評価基準は農産物直売にあることなどを解明した。以上のことから,都市部にもっと農産物直売を増やすべきであり,国産農産物の消費を増大させることによって,食料自給率の増大につながると考えられる。
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周辺諸国の青果物流通と国産無等級青果物販売の実践
万 里
(『東アジア諸国における青果物流通の実態と貿易対策』,鳥取大学大学院連合農学研究科・日中韓合同国際シンポジウム(2015年10月),pp.40〜50)
(要 旨)
本報告は韓国,中国,ベトナムにおける青果物の卸売,小売の現状などを整理し,周辺諸国における市場流通の輸送,荷姿,価格の決定方法を取りまとめた。また,考案した青果物の販売方法を無等級時間付割引販売と名付け,それを日本の大都会(大阪)で実施し,結果をまとめた。無等級時間付割引販売とは,農家が収穫した生鮮野菜,果物などから食べられない腐敗品,欠損品などを取り除き,等級分別せずに小売店舗にて販売し,消費者のよいものを買いたい心理を利用して選ばせ,時間の経過とともに品質のよいものが減っていくことに対応して販売価格を下げる方法のことである。この販売方法では農家が生産物の選別,包装をする時間と労力は不要であり,その結果,包装材料費が節約でき,規格外品廃棄の減少もできる。実験販売を通して,この販売方法はいままでの農家直売とは違い,販売店側は値引きする権限を持つ必要が指摘できる。
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米の価格形成の要因分析
万 里
(『農林業問題研究』,第52巻,第4号,地域農林経済学会(2016年12月),pp.217〜222)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
本稿では,2013年までの44年間における米を中心とした日本の農業政策の変化を取りまとめた。また, 3つの期間に分け,それぞれの期間の重回帰分析で米の価格の形成要因を分析した。農業政策,経済事情の変遷に伴い,米の価格形成に影響する要因に違いが見られる。1970年代,80年代では,政府の生産者保護による生産費に基づく政府買入価格は自主流通米小売価格大きく影響を与えた。1990年〜2003の間は生産調整面積が自主流通米の入札価格に影響を与え,2004年以降は米の生産量,作況指数は相対取引価格に影響する要因であることを解明した。
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牛肉価格の長期可変型周期変動分析
万 里
(『農業市場研究』,第26巻,第1号,日本農業市場学会(2017年6月),pp.1〜7)
抄 録 (By CiNii)(要 旨)
本論文は2014年までの45年間の牛肉月別卸売価格を用いて、固定型周期変動、時間tの関数とする可変型周期変動を分析した。固定型周期変動では、成牛、去勢和牛、めす和牛、乳用肥育おす牛、乳用めす牛それぞれの枝肉卸売価格は172ヵ月間、174ヵ月間、170ヵ月間、256ヵ月間、258ヵ月間の基本周期を検出した。時間tの関数とする可変型周期変動では、めす和牛、去勢和牛枝肉卸売価格の可変周期は増長傾向にあり、成牛枝肉卸売価格の可変周期は短縮する結果である。データ長さの制限により、乳用肥育おす牛、乳用めす牛枝肉卸売価格の可変型周期変動は分析できなかった。牛肉価格の周期変動は、1980年代の末まで、国内生産農家の規模拡大により振幅は徐々に小さくなってきた。1991年の牛肉輸入自由化により、輸入牛肉の増加は国産牛肉周期変動に大きな影響を与え、価格の周期変動は国内の生産周期と連動しなくなったと分析できる。
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飼料価格が国産食肉価格に及ぼす影響分析
万 里
(『農業経営研究』,第56巻,第3号,日本農業経営学会(2018年10月),pp.38〜43)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
本論文は,食肉生産に供する去勢和牛,メス和牛,豚を対象に,それぞれ中央卸売市場における枝肉卸売価格を被説明変数とし,1989年〜2016年の月別データを利用して,飼料価格は国産食肉価格に与える影響を分析した。結果,国産牛の枝肉卸売価格を目的変数とした場合,子牛価格,牛肉輸入量は枝肉卸売価格に対する影響が大きい。一方,肉用牛肥育配合飼料価格が枝肉卸売価格に及ぼす影響は13〜14%であり,飼料コストが肥育牛生産コストの30%を占める割に小さい。また,BSEダミー変数はt検定の1%で有意であり,国内BSE患畜が報告された後の2001年9月〜2002年8月の1年間に,めす和牛,去勢和牛,乳用肥育おす牛の枝肉卸売価格はそれぞれ21%,30%,24%下落した。豚枝肉卸売価格を目的変数とした場合,豚枝肉生産量は豚枝肉卸売価格に対する影響が大きい。養豚コストの60%以上は飼料コストが占めているが,若豚育成用配合飼料価格が豚枝肉卸売価格に及ぼす影響はわずか6%である。食肉生産コストに占める飼料の割合が高いのにもかかわらず,飼料価格は枝肉卸売価格に与える影響は6〜14%程度で割と小さい。その理由の1つには,配合飼料価格安定基金制度によって安定化が図られたことによる影響が大きいと考えられる。ただ,飼料全体の73〜75%を輸入に依存しており,近年では飼料穀物の国際価格が高止まり,補てんの発動条件である直近1ヵ年の平均価格も上昇している。飼料価格の上昇は畜産農家の経営収入に影響することが考えられる。
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時間の関数としてのピッグ・サイクル分析
万 里
(『農業市場研究』,第28巻,第4号,日本農業市場学会(2020年3月),pp.13〜19)
抄 録 (By CiNii)(要 旨)
本研究は1989年から30年間の月別データを用いて、豚枝肉卸売価格、繁殖用メス子豚価格、食肉用雑種子豚価格の周期変動を分析した。また、長期的に見れば技術的、社会的要因が徐々に変化し、ピッグ・サイクルは連続的に変化することから、時間tの関数としての可変型周期変動を分析した。その結果、豚枝肉卸売価格、食肉用雑種子豚価格の周期期間は増長し、繁殖用メス子豚価格の周期期間はいったん短縮してから近年増長に転じたことを解明した。周期期間変化の理由として、第1に、豚肉は輸入品との差別化が難しく、近年豚肉自給率の低下に伴い、価格高騰時に輸入量の増加が考えられ、豚枝肉卸売価格の周期期間増長の1因である。第2に、豚を飼育する農家の大規模化と専業化による機械設備への投資増大で、豚肉価格の変化に伴う飼育頭数の調整が困難となり、豚枝肉卸売価格、食肉用雑種子豚価格の周期期間増長につながったと考えられる。第3に、子取用メス豚のいる戸数が減少し、繁殖・肥育一貫経営の比率が低下することで、繁殖用メス子豚価格の周期期間変化に影響を与えたと分析する。
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等級別豚肉の可変型循環変動分析
万 里
(『農林業問題研究』,第56巻,第3号,地域農林経済学会(2020年9月),pp.117〜123)
全文PDF (From J-STAGE)(要 旨)
本研究では,月別豚枝肉生産量,食肉中央卸売市場の等級別豚肉月別平均卸売価格を利用して可変型循環変動を分析した。その結果,豚枝肉生産量の基本周期は2010年まで60ヵ月間からいったん46ヵ月間まで下がり,その後周期期間が増長に転じた。中央卸売市場における等級別豚枝肉卸売価格の可変型循環変動分析では,極上は65ヵ月間から40ヵ月間,等外は59ヵ月間から35ヵ月間にそれぞれ周期が短縮された。上,省令,中,並の4等級の周期期間は58ヵ月間前後から82ヵ月間前後に増長した。
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和牛肉循環変動の予測に関する研究
万 里
(『農業経営研究』,第59巻,第4号,日本農業経営学会(2022年1月),pp.63〜68)
(要 旨)
本研究では食肉中央卸売市場における去勢和牛の月別平均卸売価格を用い,時間tの関数とする固定型循環変動,可変型循環変動を分析し,すでに実体経済変動が示された2017年〜2019年の3年間を予測した。予測値と3年間の定常変動との標準誤差で比較した結果,可変型循環変動は固定型循環変動より実体経済変動に近い予測値であることを明らかにした。また,本研究では分析した去勢和牛枝肉,めす和牛枝肉の卸売価格は,肉の品質から商品の差別化が図られ,かつて輸入牛肉の影響が少ないとされていたのにもかかわらず,その定常変動から,1985年までは上り千日,下り千日の和牛枝肉卸売価格の循環変動は,その後の牛肉輸入自由化などの影響により,周期期間は倍以上に伸びた。
経済時系列の変動は様々な社会経済の影響を受けて常に変化し,固定的ではない。この意味では可変型循環変動は固定型循環変動より合理的であり,本研究の分析結果で,このことを実証できた。近年では,日豪EPA,TPP11などの自由貿易協定,経済協力協定の発効などで,牛肉の循環変動の周期期間は変化しつつある。
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和牛部位別肉の小売価格形成の要因分析
万 里
(『農業市場研究』,第30巻,第4号,日本農業市場学会(2022年3月),pp.24〜30)
(要 旨)
本研究は,牛肉輸入関税化措置(牛肉輸入自由化)以降,2020年までの過去29年間の月別データを用いて,時系列分析,重回帰分析の手法により,和牛部位別肉の小売価格形成に影響する要因を分析した。その結果,すべての目的変数に対して,豪州輸入牛肉の同部位肉の小売価格,国産豚肉の小売価格と同方向の価格変動がする。しかし,輸入豚肉の小売価格とは,t検定の5%まで有意性が検出されなかった。和牛部位別肉は,豪州輸入牛肉の同部位肉や,国産豚肉と強い代替関係にあり,相対的に安価な輸入豚肉による影響が少ない。和牛部位別肉の小売価格は豪州牛肉の同部位別肉の小売価格と正の相関にあることを明らかにした。これは同じ部位肉は代替関係にあることの表れである。さらに,和牛かたロース,和牛ばら肉,和牛もも肉の小売価格は牛肉期末在庫量と逆の動きを示し,牛肉期末在庫量は和牛部位別肉の小売価格形成に大きく影響することを解明した。牛肉は生鮮食品であり,冷蔵・冷凍による一定期間が保存できるものの,長期保存は難しい。在庫の増加は価格の低下につながる。
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